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 ずっと音声を拾っていた、魔界の城の最上階の異変。  聡明過ぎる術師の子供は、それにすぐ気が付いていた。 「猫羽さん⁉ もしかして、貴女――」 「……うん。ラピスに体、取り返されちゃった」  PHSから響く呑気な声色の彼女に、術師の子供は強く頭を抱える。 「ラピスの記憶の媒介が見つかったから、思わず触っちゃったら……コハクも捕まったから、ラピス、こっちにやって来たみたい」 「それなら今の貴女は、ラピさんの意識があるってことですか⁉」 「うん。もう止まっちゃった時間だけど……今、わたしの躰で喋ったのは確かに、ラピスの最後の心だよ」  そこにあるのは魂だけで、娘本人ではないとも言える。  それでも訴えられる心は確かに、娘のものだと彼女は伝える。  赤い髪の娘と帽子の少年に、己が誰であるかを看破された瑠璃色の髪の娘は、突然脇目もふらずに、扉の鍵を開けて部屋から飛び出していった。 「――何処行くの⁉ 猫羽――いや、ラピちゃん⁉」 「槶はその仔をお願い! ここから動いちゃダメよ⁉」  わけがわからないながら、何処からか友人がその幼女に憑依した。術師である赤い髪の娘は悟り、必死に幼女を追いかけ始める。  しかし拙い人間の気配――それも気配を作る心霊の無い相手は、鋭い霊感を持つ赤い髪の娘でも位置を探ることができなかった。  とにかくがむしゃらに階段を下りていった赤い髪の娘を、まだ回廊に隠れていた瑠璃色の髪の幼女は黙って見送る。 「ツグミ、行っちゃった……まだわたし、上にいるのに」 「槶に伝話します! すみません猫羽さん、しばらくPHSは空けて下さい!」  それなら同じ階にいる帽子の少年に連絡をとる方が良い。世界を隔てた位置にいながら、的確な援助の手を出す術師の子供に、彼女はまたも尊敬の嘆息を洩らす。  術師の子供が帽子の少年に伝話する間、彼女の意識は、灰色猫とアンテナから伝わる両方の情報を改めて観ていた。 「……狐魄に何をした、アンタ達」  届き始めた誰かの悲鳴に、銀色の死神は尚更険しく、自らを守る力の制限を解き放った。 「馬鹿、卑怯者、力なんて使うな! 剣士なら剣で闘え!」  それが死神自身にとても良くない状態であると、多少なりと焦った兄弟子が、あえて罵倒するように声を荒げる。
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