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「あれま。エルちゃん達も随分、苦戦してる模様だねぇ」 「――⁉」  ざっと大きく、黒い女から距離をとった紅い少女は、息を強く切らしながら黒い女を睨む。 「ラピスちゃん、ちょっとばかり帰ってきたみたいだけど? 水華は話したくはないのかな?」 「うっさいな……今そんなこと言っても、どーしよーもないでしょーが」  紅い少女にできることは、こうして黒い女の相手をし続け、黒い女による介入を僅かにでも軽減すること。瑠璃色の髪の娘の友人達が、娘に関わりやすくすることだと剣を構える。 「ええ⁉ ラピちゃんまだ、この階にいるの⁉」  PHSから連絡を受けた帽子の少年は、薄布にくるんだ仔狐を大事そうに抱えながら、部屋を取り囲む回廊へと出る。  そんな帽子の少年を、まるで待ち受けていたかのように――  方形の回廊の角に隠れていた瑠璃色の髪の幼女が、がばっと帽子の少年に襲いかかった。 「――ラピちゃん⁉」 「返して! 狐魄は私のだから、返して!!」  仔狐を包んだ薄布ごと掴み、帽子の少年から取り返そうとする。瑠璃色の髪の幼女の必死さに、PHSも取り落とした少年が慌てて抵抗する。  普通であれば、幼い子供の腕力など問題にもならないが、 「ラピちゃん、どうしたの⁉ どうして猫羽ちゃんと一緒にラピちゃんがいるの⁉」  全身のリミットを外した相手に対して、混乱する帽子の少年は、仔狐の保持だけには意識を集中できない。何度も仔狐を抱える腕を解かれかける。 「違う――……こんなの私じゃない!! お願いだから返して、ここから帰って、誰も近付かないで――!!」 「でもそのお守り、ラピちゃんのでしょ!?」  必死に仔狐を奪わんとする幼女の腕で揺れる小さな巾着。贈り主の少年は気が付いていた。 「大事にしててくれたんでしょ!? だからここまで、持って来てくれたんじゃないの!?」  その媒介を娘が身辺に置いていたのは短い時間だ。それでも魂と記憶を宿す程に、強い想い入れを受けた依り代。そんなことは露知らずとも、帽子の少年は娘の想いだけを受け取る。 「僕達、ラピちゃんに会いに来たんだよ! 僕も鶫ちゃんも、蒼ちゃんも猫羽ちゃんも!」 「……!!」  瑠璃色の髪の幼女の片腕を掴み、深い青の目をまっすぐ見て叫ぶ。真摯な少年に娘は双眸を(みは)って声を詰まらせる。
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