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 突然PHSから応答が途絶えた術師の子供は、必死に帽子の少年に呼びかけていた。 「槶!? 槶ってば! もう――どうしたっていうのさ!」  仕方ないので通信を切り、PHSの主に呼びかける。 「今、どうなってるんですか、猫羽さん!?」 「……ラピスがクウから、コハクを取り戻そうとしてる」 「槶は無事なんですか!?」 「うん。兄さんはソウが止めてくれてるし、ラピスにクウを傷付ける気はないもの」  そこではたと、術師の少年は大切なことに気が付く。 「鶫ちゃんはどうしたんですか!? まだ戻ってない!?」 「わからない……ツグミだけは、何も持ってないから……」  現在体を使えない彼女には、目前の状況以外、アンテナやPHS、灰色猫に憑く悪夢から届く情報しか把握できなかった。 「じゃあラピさんは狐に戻れなければそのままで、猫羽さんは外に出られないままですか!?」 「そうかもしれない。困ったね、ツグミを探せないね」  あっけらかんと答えるPHSに、それだけじゃないです! と怒ったように術師の子供が応答する。 「狐を渡せばラピさんはまたいなくなっちゃうし、でも渡さないと猫羽さんが消えちゃうじゃないですか!」 「……何で? わたしは悪魔を使えば違う依り代で動けるし……ラピスがそうしたいならそれでいいよ」  その躰に彼女が在る以上存在は保たれる。ただ活動媒体が変わるだけだと、悪魔使いは達観したものだった。 「何か違いますそれ! ラピさんも猫羽さんも幸せじゃない気がします!」 「そうなのかな……うーん……」 「それにみんな哀しみますよ! とにかくまず今のラピさんを止めないと!」  思わず術師の子供は、魔界の扉に入るために、子供の代わりに扉を守る仮初めの使い魔――式神を創ろうとしたが、 「……って、着信!?」  帽子の少年の改めての連絡に、慌ててPHSを本来の機能に切り替えていた。 「悠夜君!? 僕だけど、ラピちゃんが上に逃げちゃったから追いかけるね! 鶫ちゃんや蒼ちゃんには心配しないでって伝えて!」 「上……ってまさか!?」  その上は屋上とすぐ思い至った子供は、逃げた者の意図を考えて血相を変える。 「大丈夫だから二人で話させて! ラピちゃんは猫羽ちゃんを傷付けるようなことは絶対しないよ!」  それは確信を持って伝えると、帽子の少年は通信を切った。瑠璃色の髪の娘の後を追ったらしい少年に、術師の子供は魔界入りを思い止まったのだった。
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