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 その長い階段を、幼い体で必死に駆け上がる、瑠璃色の髪の娘の息苦しい胸には――  ただ一つの、最後の心が、繰り返し娘を追い立てていた。 ――私なんか……。  魂だけが映す心は、その記憶と理性にのみ支配される。 ――私なんか、消していいから……。  独りきりで消えることを拒んだ心を、最早掬うことはできなかった。 ――誰にも知られずに……消えることができれば……。  ただそれで、娘は良かったのだと――  娘自身、最後まで気付けなかった、ある間違いを願い続ける。 「……でも、ラピス……」  娘の内に潜む彼女は、その間違いを間違いと知らなかった。 「死んだら……ずっと、独りだよ……」  真の望みだけを汲み上げて言う。確かに彼女が味わってきた、救い無き暗闇の世界をぽつりと呟く。  目を覚まさない仔狐を大切に抱え、帽子の少年は紅い空の下へと辿り着いた。 「……ラピ、ちゃん?」 「…………」  四方を柵の無い縁に囲まれる屋上。端側に俯きながら立った、瑠璃色の髪の娘。 「……もう……ここには来ないって約束して……くーちゃん」  その幼い体に舞い戻ってから、初めて少年の愛称を口にする。  顔は全く上げないままで、帽子の少年のそれ以上の動きを、次に続く言葉で封じた。 「これ以上近付いたら……私は、このコのことを殺す」  それを口にする程、娘が追い詰められている現実。  少年はただ、悲しげに立ち止まり、じっと瑠璃色の髪の娘を見つめる。 「このまま帰れば、くーちゃん達は……元通りだから」 「……え?」 「私のこと――……みんなには、忘れてほしいの……」 「……そんなの、おかしいよ――……ラピちゃん!?」  少年はただ叫ぶ。そこにある取り返しのつかない大きな間違い。その救いを受け取ってしまった者の名を、全ての制限を振り切って呼ぶ。
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