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「忘れることなんてできないよ! ラピちゃんは確かにずっとここに――僕達と一緒にいたのに!」
「でも私はそうしたい――……私は、ここから消えたいの……」
「どうして!? 何でそんなこと言うの、ラピちゃん!?」
顔を伏せて口を引き結ぶ瑠璃色の髪の娘。
それを尋ねる帽子の少年の顔を見られず、俯くしかないように震え続ける。
「私は……くーちゃん達に、おかしいって思われたくない」
「……ラピちゃん……?」
「くーちゃんみたいに笑っていたい……くーちゃんにもずっと、笑っててほしい……」
それが娘を、長く支え続けた心。娘と同じく血縁が無く、それでも明るく強く――優しく生きる少年への想いだった。
「私はただの人間だから……みんなの足手まといだから……」
たとえ自らが死者であると、思い出せなかった日々にも、
「いつか……くーちゃん達とは、一緒にいられなくなるから」
その思いは常に、優しい混血達に囲まれる娘は忘れられなかった。
「いつか消えるなら……私が消えたって、くーちゃん達には、ずっと気が付かないでいてほしい……」
優しい彼らが何一つ、気に負うことが存在しない。そんな別れを娘は願う。
「またいつでも……会えたら笑ってほしかったの……」
その気軽さが続くことが、たった一つの望みだった。
君にはわかるでしょ? と。
空ろな黒い女は、肩で息をする紅い少女に悲しげに笑う。
「君があえて、失われた誰かを再現するのは……誰かがもうここにいないって、知られたくないヒト達がいるからだよね?」
「……」
「そのヒト達と共に在る間だけでも、人形になり切れれば――君の望みも叶うし、そのヒト達の悲しい顔も見ないで済むしね」
何を意固地になっているのか、とその兄弟子は静かに尋ねた。
「オマエが守るべきものは別にあるだろ? ここで倒れて俺を止められたところで、それが何になるんだ?」
「……」
ぎり、と――動ける限界はとっくに過ぎていた銀色の死神は、それでも鳴り止まない悲鳴に耳を塞げなかった。
それなら自らの命に換えても、悲鳴の主の望みを叶えることが、とっくに一度破綻した死神の末路だった。
……そこで新たな、誰かの悲鳴。
時間の止まりかけた銀色の死神に、それが届くことがなければ。
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