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 馬鹿馬鹿しい――と。  紅い少女はあっさり、黒い女の感傷を否定するように言った。 「別に、水華はずっとここにいるし……本人が外に出られなくなっただけだし」  既に光を失った羽。しかしそれをずっと、紅い少女は留めていた。 「あたしは正直、このあたしをやるのが一番楽しいけど。でもそれだと――キャラが被るでしょ?」  普通では視えない透明な羽をはためかせつつ、黒い女をつまらなさげに見返す。 「あたしと水華が別人なのは変えられないし。最初に生まれたあたしは今の水火だったし……それなら別に、状況に応じて使い分ければいいだけじゃない」 「……使い分けれてるかな? 君は無意識に、水華であるなと、自分を抑えてるんじゃない?」 「……」  だから、誰かが真に望む時にしかその姿を現さない。  紅い少女が自らに課す制限を、とっくに知っていた黒い女が笑う。 「別人であることを示さないと――水華が消えると思ってるから」  その二人の少女の差異が、一見あまりに大きいために、 「水華の力も使いこなせない自分が、水華だと思いたくないんだよね」  それは別のものであると、互いを残したい願いを叶えるために。  でもね、と――鋭い霊的な感覚を持つ女は、既に気が付いていたある真実を口にした。 「君のその羽は……確かに君のものなんだよ、水火」 「……?」 「命の無いその体に、君の羽が植えつけられて……それで体に心が生まれたのは、羽がその体に合ってたからだよ」  そうでもなければ、羽が光を失った後も活動を続けることはできない。人造の生き物である少女に宿った、確かな命の在り処を伝える。 「君は羽に操られていた人形であると同時に――その羽の主の、生まれ変わりなんだよ」 「……――」 「魔である体を守るため、新たに生まれた魔の心が君なだけで。君達は同じものだから……別に、キャラが被っていいんだよ?」  だからただ、羽が光を失ったのは、以前の記憶を失っただけだと。  必要であればその「力」も、紅い少女は再び受け継げるはずだと――楽しげに黒い女が微笑んだところで。 「……バカバカしいったら」  同じくらい楽しげに、不敵に微笑んだ紅い少女が、ずっと構える白い三日月の柄の剣に、限界の近い最後の力を込める。  ちょうど同じ頃、馬鹿馬鹿しいと――全く同じ台詞を、同じ剣士である少年が口にしたことを、知る由もないまま。
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