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 それから、最上階の寝所に待機していた一行の元へ赤い髪の娘が帰ったのは、かなり時間がたってからだった。 「……どーなってるの、コレ?」  赤い髪の娘が絶句した通り、そこでは異様な光景が娘を待ち受けていた。 「良かった。ツグミ、ケガはない?」 「猫羽ちゃん……体は大丈夫なの?」  うん、と頷く瑠璃色の髪の幼女は、灰色の猫のぬいぐるみを抱え、すっかり元通りだった。 「ラピスも帰ってきたよ――ツグミ」  喜んでいる視線の先には、寝台に座る帽子の少年の隣に、無表情でぴたりと首に手を回し、くっついている白い娘。薄い琥珀色の狐の耳と尻尾を生やす、謎の着物の人影があった。 「……やっぱり、あれ、ラピなの?」  唖然としている赤い髪の娘を、無表情にキョトンと白い娘が見返す。友人と生き写しで髪が白、目が紅と色が違う姿。狐魄と呼ばれる狐娘に、赤い髪の娘は現状を受け入れる。 「全くだ。魔界なんて行くから、ラピもラピ狐になるんだろ」  長椅子にどんと座る剣士の少年は、少年なりの解釈を既に適用している。帽子の少年も苦笑しながら、知るだけの状況を伝える。 「コハクちゃんだけだと、ラピちゃんの記憶はないみたい……それは帰った後に悠夜君と相談してみなさいって、ラピちゃんのお母さんが教えてくれたよ」 「……そうね。多分今のこのコ、真っ白な使い魔みたいな感じ。その分色々、正直になってるみたいだけど……」  ぴったり帽子の少年にくっつき、無表情でも満足そうな狐娘に、赤い髪の娘は良くも悪くも気が抜けていた。 「何かでも……幸せそうね、ラピ」 「うん。思い出したら辛いだろうって、母さんは言ってた」  心無きままの魂には重過ぎると、あえて離された記憶。その在り処の小さな巾着を腕にかけながら、幼女は呟いていた。 「でも……思い出した方が幸せなこと、一杯あると思う」 「そうだね。僕もできれば思い出してほしいな。ラピちゃんとまた話したいし、みんなで遊びたいしさ」  ……と、赤い髪の娘が僅かに痛ましげにするのに対し、帽子の少年は儚くも楽しそうに微笑む。 「魔界を出たら、コハクちゃんも狐に戻るんだって」  主となった帽子の少年に、その魔を普通の場所で人型に保ち、使役することは難しいという。 「それなら常時もふもふだね。肩乗りだ毛皮だ、温かいよ♪」  心から嬉しそうな少年に安堵しつつも、苦笑した赤い髪の娘だった。
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