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 やがて、一行が連れて戻って来た仔狐に、大体の事情はわかりながら、術師の子供がしばらく難しい顔をして考え込んだ。 「ラピさんの心を……この仔に戻すかどうかってことだよね?」  瑠璃色の髪の娘だったものはここにいる。仔狐となってしまった友人に、一行は戸惑いながらも真剣に向き合う。  昨日のように、紅い少女の部屋に集まった一行は、ベッドで寝ている紅い少女を起こさないように小声で相談する。 「大丈夫だよ。水火は起きても怒らないし、一度眠れば、全然いつも起きないし」  瑠璃色の髪の幼女は黒いリボンを外して髪を下ろした。小さな巾着の飾り紐になるように取り付けながら、同室者に対して遠慮のないことをあっさり口にする。  襟巻のような薄い琥珀色の仔狐を、帽子の少年が肩に乗せている。「ずっと一緒にいる」、そう約束して、城主から仔狐をもらい受けてきたのだ。  術師の子供は躊躇いがちに、考えていたことを口にする。 「戻るか、戻らないか。それはラピさん自身に、選んでもらえばいいと思う」 「――と言うと? 悠夜君」 「槶にラピさんがいる所を教えるから。それで、直接きいてくるのはどうかな」 「悠夜……それって……」  仔狐が現状に至った理由の詳細はわからない。それでもその中身が、この世界にないことを確信している赤い髪の娘が眉を顰める。 「それがいいだろ。結局ラピ狐の問題だしな」  それでも淡々と言う剣士の従兄に、確かにそれ以上は難しいと項垂れる。  少年少女達を覆い続けた違和感は、今は在っても無くても問題ない状態となっていた。たった一つの内容――瑠璃色の髪の幼女の正体以外に制限は受けず、一行は相談を続ける。 「僕もそれでいいよ。ラピちゃんが嫌がることはしたくないし」  肩の襟巻をさわさわ撫でながら、帽子の少年は笑って言う。 「ラピちゃんの嫌だ、は当てになんないから、難しいけどさー」  それはおそらく、娘自身もわかっていないこと。だから出たところの勝負にしかならないだろうと。 「……多分、今度会うラピさんは、何も嘘はつけないと思うよ」  そこに在るのは、何にも飾られない心そのもの。降霊術をこなす術師の子供はそんな特性を知っていた。 「良くも悪くも……本当の気持ちを教えてくれるよ」  それがどちらに転ぶことになるか。確かに安らぎを得たはずの相手に、面持ちを少し硬くする。 「……クウ。これ」  瑠璃色の髪の幼女がベッドから降り、くいくいと床に座る帽子の少年の服を引っ張った。 「え? これ、どうするの、猫羽ちゃん?」  そのまま渡した守り袋。黒いリボン付きでペンダント化した小さな巾着を、不思議そうに帽子の少年が見つめる。 「……受け取ってくれそうなら……ラピスに返して」  「神」の残滓を宿し、幼い子供に「忘失」の「力」を与えた黒いリボン。そして仔狐の記憶を宿す琥珀石を、惜しげなく手放した幼女だった。 +++++
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