3人が本棚に入れています
本棚に追加
夜が遅くなってしまったものの、二度泊まるには着替え等の問題もある。
暗い川辺で、少年少女達は帰路についた。
花の御所に滞在する目的は果たしたものの、挨拶も何もしていない幼女も、赤い髪の娘に手をひかれ、共に御所へと青白い月夜の道を向かう。髪を結ぶ黒いリボンがなくなったので、長い瑠璃色の髪がさらさらと風に揺れていた。
「ねぇ……ツグミはずっと、何処をさまよってたの?」
「さぁね。結局アイツ――最後まで私に気付かなかったし」
魔界の城で一時期はぐれ、最後に戻って来た赤い髪の娘。
娘を最上階の近くまで連れ戻してくれた相手に、不服気に息をついている。
「ごめんね……兄さん、知ったら絶対怒るから……」
その相手の暗幕を解除しなかった幼女は、謝ることしかできなかった。
しかし赤い髪の娘も、そこで困ったように笑った。
「無理もないわよね。色んな心配事や辛いことがあり過ぎるから……これ以上負担かけるのも、今はきついだろうし」
幼女の判断は正解であると返す。娘が誰かわからないことで、かえって気楽に話していた相手を思い出して苦笑している。
「ラピのこと……アイツ、落ち込んだんじゃない? 猫羽ちゃん」
「…………」
前を行く少年達の後ろ姿を見ながら、娘もぽつりと呟いていた。
「私は正直――どう受け止めていいのか、今もわからなくて」
「……」
「何があったかもわからないし……このまま、今までのラピにもう会えなくなったら……何かを後悔する気がする」
その相手が、現状に至った理由。直接手を下した者のことも含め、それだけは口にできない状態が維持されていた。
「槶に任せるしかないけど。何もできない、言えないって嫌ね」
「……もう、それは届いてると思う、ツグミ」
娘達のその温かな心で、どれだけ相手が救われていたか、幼女は知っている。
「何かやろうとしたら……わたしや兄さんみたいになるから……」
だからそれはお勧めしないと、無機質に口にする。
最初のコメントを投稿しよう!