余話

4/33
前へ
/165ページ
次へ
 ただし娘は、その瑠璃色の髪の友達の、昔からの弱点も知っている。唯一それだけは、ずっと気にかかっていた。 「……人間やめたいとか、ラピなら言っちゃいそうだけど」  弱いものを疎む心。それ故に、時に自らを拒む哀しい相手を。 ――私なんか――……消えちゃえばいいの……。  友達がどうしてそんな風に思うようになったのか。  出会った時からそうだったとしか、娘には言えなかった。 「ラピ……! 待って、何処――!?」  目指す者がもしや多少の「魔」になっているかもしれないと、彼らも少しは覚悟して魔界を訪れていた。  それでも一緒に連れて来た友達の妹に憑依するという、予想を遥かに超えた現れ方には正直動揺した。瑠璃色の髪の友達は逃げるように、その城の最上階から駆け出て行ってしまった。 「ここで見失ったら、もう――」  とにかく追いかけて出たものの、茫然としている娘は普段の冷静な思考ができない。気配もわからないまま当てずっぽうに階段を駆け下りる。 「もう――……何だか、会えない気がする……!」  相手が幸薄い生い立ちであることは、ずっと感じていた。  それを覆す程現在は優しい環境に恵まれており、特に娘も顔見知りの養母は友達を大切にし、こんな親バカなら素敵だと思う母親だった。 「ユーオンも流惟(るい)さんもラピも、みんなどうなったの……!?」  最初に来た回廊まで降り着いた娘は、すっかり友人を見失ったことを認めるしかなく、そこで一旦立ち止まる。  娘がいる南の回廊とは対極の、北側で激しい剣戟の音が響いている。 「あのバカ。もう既にボロボロじゃないの」  そこで闘っているはずの、銀色の髪の少年。若くして達人の域に達する剣士の従兄に、大きく苦戦しているのを感じ取る。  この城で友達と会うために、捕まえることが必要と言われた仔狐を、銀色の髪の少年はただ守ろうとしているらしい。普段は金色の髪をしており、余程のことがない限りは、命を削る銀色の髪にはならない。それだけ少年は本気で闘っている。 「でも……蒼に任せておけば、大丈夫そうかな」  だから今、銀色の髪の少年が消耗しているのは、従兄と闘っているからだろう。そう判断した娘に余計な心配をかけずに済んだのは、銀色の髪の少年には幸いなことだった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加