余話

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 どうして銀色の髪の少年が闘うのか、娘にはわからない。  何故瑠璃色の髪の友達が現れ逃げたのかも、何もわからない。 「これ以上……追いかけた方がいいのかも、わからない……」  どうすれば彼らの力になれるか、ただ、混乱していた。 「……一度、悠夜に相談してから、上に戻った方が良さそうね」  この城に来た転位の扉が現在地の近くにあるはずだ。その扉――ある客間の洋服箪笥を目指し、娘は部屋の一つに入った。  入ってきた時にも思ったことだが……その客間は非常に明るく、可愛く飾り立てられ、とても悪魔の城の一室とは思えなかった。 「えーっと……どの箪笥だっけ?」  クローゼットも全部で三つあり、蔦のような桃色のバラの花の飾りがあしらわれ、似たり寄ったりの様相をしている。 「これだっけ?」  まさかそのような所に、可愛いものが大好きでお洒落な部屋の主の、趣味の罠が仕掛けられているとは。まだ混乱が残る娘は、警戒することもできなかった。  両開きの扉を開けた瞬間、まるで扉から手が生えるように、引き込むような強風と黒い光が娘を捉えるように出現した。 「……え!?」  それと同時に、底抜けに明るい幼女のような声が場に響く。 「禁断の扉にようこそ! 此処こそはリリトちゃん屈指の秘境、無限の可能性を秘めたコスプレ王国なのです!」 「えええええ!?」 「イタイケで可愛いお嬢様、一名様ご案内~!」  嘘!? としか、叫ぶ間もなかった。何が何やらわからない内に、娘の意識は突然遠くなってしまい――  後には、ぱたんと扉を閉じたクローゼットが残るのみだった。 +++++
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