余話

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 この悪魔の城に潜入するにあたり、娘達は、存在に気付かれるそばから忘れられ、気にされなくなるという、特殊な結界に守られている状態だ。それについて一応、目前の誰かは感じ取っているらしい。 「この、弱小ながら超上級悪魔たるリリトちゃんすら誤魔化す力なんてぇ♪ でもとりあえず可愛いっぽいから許すぅー!」 ――こ、このヒト、まさか……!?  誰かは娘がそこにいることは辛うじてわかるが、それが顔見知りとまでは思い至れないようだった。 「写真とったらさすがに残るかなぁ、誰かわかんないけど一番可愛いの着せたげたいなぁ♪ さぁさぁ、言うことをきくのだー!」 「ちょ、ちょっと……!」  腕の中でジタバタと暴れる娘を、身長が低く見た目も年下そうな幼げな相手は、いともあっさり組み伏せている。そのまま娘の着物の細帯をひらりと解いてしまった。 「リリトちゃんの別荘に侵入して、秘蔵箪笥を覗いた罰だぁ! あなたは今から、リリトちゃんの着せ替え人形なのォ♪」 「えええええ!?」  暗い部屋の明るい寝台で、爛々と目を光らせる部屋の主は、娘が少し前に、臨時に加わらせてもらった旅芸人一座の知り合い。異国のふわふわな髪の人形のような花形の一人だった。 ――何で――(るん)さんがここに!?  今まさに間着(あいぎ)の襟を開き、娘から着物を脱がさんとする力は並々ならず、心底の危機感を持った。 「や、やめっ……!」 「やめなーいっ! 抵抗するなら眠ってもらっちゃうぞ♪」  相手の縄張りであるためか、呪術師である娘の力も使えない。他に身を守る術としては、殺傷能力の高いものしか持たない娘が、知人を相手にその使用の判断を迫られた……強い葛藤の直後だった。  バタンと大きな音をたてて、鍵のかかった扉が蹴り開けられた。 「……そいつに触るな……淪」  扉の外の明かりを背に、何故か、従兄と闘っていたはずの銀色の髪の少年がそこに立っていた。
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