余話

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 ぴたりと――……娘を押さえつける力を和らげ、部屋の主の花形は開かれた扉の方へ振り返った。 「きゃぁぁ、今日は時雨ちゃん出てるんだ、レアキャラだぁ♪ どーしたのぉ、ついにるんと遊んでくれる気になったぁ?」  あまりにあっさり娘を解放し、ベッドからぴょこんと飛び降りる。暗い中でも足一つ踏み外すことなく、銀色の髪の少年の元へと駆けていった。 「……あんたは元々、レンの彼女だろ」  とても嬉しげな花形に対し、少年は無表情に、冷たい青の目で抜き身の剣すら手にしている。 「やぁーん、そんな冷たい時雨ちゃんがやっぱり超好みぃー! せっかく時雨ちゃん出てるなら寄ってってよ、休暇中だけでもいいから遊んでよう♪」  寝台に残された娘が慌てて着衣を直している間に、今度は銀色の髪の少年にくっついているらしき花形だった。 「…………」  少年は無言で、くっつく相手を引きはがしたらしい。暗い中で寝台の方に近付く少年の後ろ姿に、ちぃっ、と声がかかる。 「時雨ちゃん絶対押したら落ちるし! 今度こそ見てろぉ!」  少年を止める気のなさそうな相手は、捕らえた娯楽を失ってでも、少年に悪印象を与えたくないようだった。 「……」  寝台の脇まで来た少年は、回廊で従兄と闘っていた時には身に着けていた黒いバンダナをしていない。思わずほっとした娘が知るままの、冷徹な銀色の髪の少年だった。 「……やっぱり……さっきの奴らの仲間か」  しかし少年から娘は、結界の存在のために、存在はわかっても知り合いとはわからないようだった。  それなら何故……と。娘は寝台に座り込んだまま、銀色の髪の少年を不機嫌な気分で睨む。 「……私に何の用があるの?」  娘が誰かわからないなら、従兄と闘っていた少年がどうしてここに来たのかがわからない。助けてくれたなんて、思っていいのか混乱してしまう。しかもそれは少年も同じようで、さぁ? と無表情のまま、無責任に首を傾げていた。
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