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そうした無自覚で、危うい相手と知ってはいたが、元々言葉数の少ない少年は不意に、娘の手をフっと掴んだ。
「最上階まで送るから、さっさと帰れ」
「え!?」
強引に娘を引き起こすと、ぶうぶう言っている花形の前を通って部屋を出た。
突然手をひかれてわたわたとしてしまい、娘は何も言えない。
「あんたの仲間はそこにいる……狐魄もそこにいる」
そこまでの動きは全く自然で、抗う余地も皆目なかった。
そこはどうやら、城内ではかなり下の階層であるらしい。
部屋を出てからは、娘の動揺を感じたのか少年はすぐに手を離し、ついてくるよう黙って背中で促して歩き出した。
「……どうして?」
今度は娘は、はっきり言葉に出して尋ねた。
「私達は侵入者なのに……助けるの?」
「……」
少年は立ち止まると、ちらりと娘の方に振り返る。
それでも無言のままでいる少年に、娘は続けざるを得ない。
「アナタは、あの仔……狐魄を守りたいんじゃなかったの?」
そもそも少年が従兄と闘う理由となった謎の仔狐について、そこで尋ねずにはいられなかった。
振り返った状態から、少年はまっすぐに娘を観ている。
「…………」
娘が本当に尋ねたかったこと。瑠璃色の髪の友達と会うため、どうして仔狐が必要なのか。
それを感じたらしい勘の良い少年は、淡々と、何処か遠くを見つめるように口にするのだった。
「あんた達は……狐魄が何なのか、知らなかったのか」
「……」
黙り込みながら、娘にはある回答が喉元まで来ている。けれどそれは、一番認めたくない現実だった。
その葛藤すら感じたように、青い目を伏せながら少年が曖昧に言った。
「……狐魄は……俺の知り合いの、抜け殻だ」
その後は少年は、有無を言わさずに背を向けて歩き出した。
娘が意識を失う少し前には、ボロボロに感じられた気配は、何かの力を使って持ち直している。無言で長い階段を上がる後ろ姿には、体力的に危なげな様子はあまり見られなかった。
「…………」
少年が持ち直した力が、娘が以前に渡した水の護符の賜物とは気付いていない。
「……もう、意味、わからない」
それでも少年の姿が危うげに見える。それがどうしてなのかもわからず、胸に棘がささったような気分だった。
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