余話

11/33
前へ
/165ページ
次へ
「でも……それでも、話さなきゃいけない時だってあるわ」 「……」 「話せないんじゃなくて、話したくない子が相手なら、尚更……私達から、無理に訊いても良かったのかもしれない」  目先の望みに添うだけで、果たして良かったのか。  そうだな、と少年は何故か、僅かに綻んだ口元で頷いていた。  そこから歩みを再開したが、黙って階段を上るのが気づまりで、そのまま話を続けることにした。 「昔からそういう子だったの。傍目には凄く直球なんだけど、本心の裏に、本当に大事な本心があるっていう感じ」 「……」  娘の住む街、京都の南に引っ越し、幼い友達は京都にジパング語を習いに来ていた。 ――私は、みんなと遊びたくなんかないもの。  従兄、帽子の似合う連れと娘が街を出歩き、相手を見つけて声をかける度にそんな風にトゲトゲと返す。不機嫌そうな顔を隠しもしない深い青の目だった。  そんな返答は紛れも無く、幼い友達の本心だとわかった。 ――どーしてー? 何で僕達と遊びたくないの?  それなのに怖いもの知らずに尋ね返す連れに、その先の本心を友達が口にするのは、思えば何度かあったことだった。 ――だって…………私といたら、みんなも……。  その頃の友達は、ジパングの隣人とは言葉も通じず、珍しい瑠璃色の髪をしているせいか悪魔憑きなどと呼ばれることがあった。  娘達をそこに巻き込みたくないという、拒絶こそが親愛表現だった。苦笑いしながら語る。 「その子の兄貴も似たような奴なの。兄貴と違って、その子は段々、違うやり方を覚えて丸くなっていったけど」 「……」  何度となく街で出会い、時には友達に酷いことを言う者達を撃退し、それ以外は当り障りない付き合いを続けていた。  その内に明らかに、幼い友達の態度は徐々に軟化していた。 ――……みんなは今日は、どこに行くの?  しかしそれを、自分でブレーキをかけようとする意固地な姿。ますます娘達は相手を構いたくなる関係となっていた。 ――お淀で鬼ごっこするんだよー。ラピちゃんも来る? ――何で。別に面白くないよ、そんなことしたって。  相変わらずつれない言葉を翻訳すると、身体能力が彼らほど高くない自分がいても話にならないと、幼くも冷静な見立てで遠慮する友達だった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加