余話

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 もしも友達が、彼らの声掛けをただ待つだけの子供だったら、娘達はその内関心をなくしていただろう。  しかし梃子でも動きたくないらしい相手を動かすことは、とても面白く……一度動けば、その後の瓦解は速かった。 ――……鶫ちゃんって、呼んでいい?  その程度のことをはにかみながら尋ねてきた友達の姿を、今でも娘は、何故か忘れられなかった。  養父母と共に様々な地域を旅する友達は、旅先の土産話や特産物を、よく養母と共に持ってくるようになった。 「話してみれば本当に、色々なことを知ってる子でね。私達が純粋な人間じゃないって初めからわかってたみたいで……でも全然怖がったりしなかったし」 「……あんた達は、化け物の力を持ってることは隠すのか?」 「怖がられたらいけないもの。大っぴらにはできないわ」  娘達は、術師として名の通った家系だ。それも弱小な人間からは、迫害や糾弾の材料にされることがある。身を守るため以上の業が呪術にはある。 「普段は意識してないけど……はっとするような時はあるの。私のことというよりは、私の周りのことの方が多いけど」  特に強い力を持つ身内――同じ子供である従兄弟達は、決して平坦なばかりの道程ではなかったことを思う。持ちたくて持った力でなくても、その役目は果たさなければいけない運命。 「アナタは、隠さないの?」  普段は金色の髪をしている少年と、目前の銀色の髪の少年は、あまりそうしたことに気を使うようには見えなかった。 「隠しても――すぐばれる」  無表情のまま、つまらなさそうに呟く。思わず娘は、初めて現れた頃の少年を思い出して口元を綻ばせた。 「それは、そうでしょうね」  全身を厚い外套で覆う程度しか、自身の異形さを隠す方途を知らない少年。尖った耳や珍しい目の色からも到底、化け物であることを悟られないのは無理な話だった。
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