余話

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「……」  再び黙って階段を上り始めた少年の後ろ姿に、娘は改めて違和感をはっきりと認識する。 ――何だか……随分……。  青白い月夜に、初めて話をした時に比べて、銀色の髪の少年は―― ――銀なのに……穏やかな感じ。  以前には、居候先で流血沙汰を起こすような苛烈さしか見せなかった。表情の冷たさこそ変わらないが、雰囲気は明らかに丸くなっている。 「――まずい……」  突然また階上で立ち止まり、振り返らずに両手を組んで何かを悩んでいる姿など、これまでにない力の抜け方に見えた。  表情のないまま首を強く傾けている少年に、後ろから声をかける。 「どうしたの? 気分が悪いんじゃない?」  心なしか少年は顔色も白っぽく、血の気がひいていた。 「……この道は、これ以上はまずい」  しかし少年が悩んでいるのは、全く違うことのようだった。 「違う道がいるけど……今は、思い出せない」 「ここから先は通れないってこと?」  娘達が上がってきた方形の螺旋階段は、まるで巨大な四角い柱の外壁を斜めに登るような構造で、踊り場につくたびに柱の内部の部屋を通って次の階段に抜ける。今まではほとんど無人で、難無く通って来れた。 「もう少し先の部屋には、誰かいるの?」  言葉足らずの少年の先を促して尋ねる。察しのいい娘に、少年は小さく頷いていた。 「それなら確かに……ここから出る道を探さないとだけど」  上層まで中空の建物の芯のような階段からは、城の他の場所に繋がる連絡通路はたまにしか現れない。 「しばらく無さそうだから、一度戻らない?」 「……」  これまで上ってきた時にあった連絡通路までは、かなり後退を強いられる。それが少年は気に食わないようだった。  少年は何故か、眠たげにも見える様相で顔を僅かに顰めた。 「……繋がってる所は、他にもあるはずなのに」 「――見えてないだけってこと?」  現状把握に極めて優れた少年には、娘が気付けない隠された通路も本来はわかっていたはずらしい。 「これ以上……思い出せない」  俯きながらぽつりと……今の少年にできる限界がそれだと、娘を見ずに少年は呟いていた。
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