余話

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 その少年の様子がとても拙く見えて、不意に不安になった。 「やっぱり気分が悪いんでしょ。少し休まない?」 「…………」  顔を上げた少年は、以前通りなら不服そうな顔をすると予想する。 「少し待てば、この道も安全になるかもしれないし……そんな悪い顔色じゃ、いい案だって浮かばないでしょ」 「……」  娘の言葉を黙って待つ少年は、無表情ながら妙に素直そうな面持ちだった。  そのため逆に、娘が少し呆気にとられる。 「……それで、いい?」  そうした様子の少年の真意がわからず、一応確認する。少年はあっさり、コクンと頷いていた。  そのまま少年は階段に座り、相も変わらず表情のない顔で、小さく息だけをついていた。 「さっき闘ったばかりなんだし――疲れてるんじゃない?」  下段で立ったままだと、丁度少年と視線が合う。ひたすら無表情の少年に、何故か気持ちが重くなりながら尋ねる。 「いい勝負だったみたいだし。自分以外のことであれだけ闘えるヒト、そんなにいないと思うわ」  剣士の従兄がどれだけ腕が立つか。それを知っている娘にとっては賛辞だったが。 「まさか。最初から最後まで、俺だけがずっと負けてた」  淡々と少年は、暗い青の目で娘を僅かに見上げて呟いた。 「俺は、殺す気だったのに……向こうには全く、俺を殺す気はなかったんだから」  それは紛れも無く、根本的に苛烈な少年の真情であり――  だからこそ少年は、そこで初めて、僅かな微笑みを浮かべた。 「あんたも……あんたの仲間も、強いな」 「……――」  微笑むという有り得ない顔の少年のまっすぐな目線。完全に不意をつかれて思わず口を引き結ぶ。 「俺は殺さないと勝てないけど……あんた達は、殺さないでも勝てるんだ。……そのやり方を探して頑張れるんだ」  今度は儚いどころではなく、完全に笑っている。娘がよく知る金色の髪の少年以上の、穏やかな純粋さに満ちていた。 ――……!!?  思わず唖然とし、少年をポカンと見つめてしまう。 「?」  不思議そうに少年は、今も誰かわからないはずの相手の娘を、優しげな笑顔で見つめ返す。 ――有り得ない……!  殺し合いを厭わず、呪いの力で封印まで必要だった「銀色」。その安らかな視線に、娘は思わず目を見開いてしまった。  そう言えばそうだった。この少年は、ヒトを呪う娘達の「力」を、温かいなんて言ったこともあるのだ。
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