余話

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 埒が明かず、娘はそこではっきり、 「嫌だし。アナタを囮にするみたいなやり方、気に入らない」  事情はよくわからないまま、わかった部分への反論を口にした。 「別に違うだろ。絡まれる可能性があるのが元々俺だけだ」 「でも私に関わってこの下の方まで来ちゃったから、アナタも危険なんじゃないの?」 「……――」 「アナタが元々いた所は、そんなに危険そうには見えなかった。流惟さんがアナタや狐魄を、危険な所に置くとは思えないし、それならこれは……やっぱり私のせいだわ」  もしも何かの危機が現在、少年達に迫っているのだとすれば、それは娘も戦うべき時だ。  従弟ほど強い「力」を娘は持たない。武技では従兄にかなわない。街の少年ほどの生活力もない。苦手なことはないが、特技もないのが長い悩みだった。  だから非力な人間としての戦う力を磨いた娘に、かつて金色の髪の少年は「はしたないのは良くない」などと言った。娘に戦わせまいとする相手を、まっすぐに見上げる。  バンダナの少年は少しだけ、何処か辛そうにそこで目を伏せた。 「あいつは……狐魄を心配、してたのかな……」  ぽつりと、そんなことを呟いている。 「どうして? 心配してなければ、あの仔を近くに置いたり、アナタに狐魄を守らせたりしないでしょ」 「……」 「流惟さんはとても優しいヒトだと思う。たとえ悪魔みたいになっても……きっとその理由は、悲しいことなんじゃない?」  今の娘にとっては、何故友人の養母が変貌したかも納得ができるものだった。 ――もしもラピに、何か悪いことがあったとしたら……。  「魔はヒトを糧とし、ヒトの形に留まらず、ありとあらゆる手段を以て、ヒトの望みを叶えるものである」……一言一句、思い出せる文章を反芻する。 ――流惟さんは絶対、とても悲しんで……止めようとしたはず。  願いを叶えるためにどんな怪物にもなり、どんなことでもするモノが「魔」ならば、友人の優しい養母がそこに陥った契機はそれ以外には考えられなかった。 「……もしも、あいつが……初めから悪魔だったとしても?」  少年はそこで、詳しい事情は口にしないまま、 「狐魄も最初から、利用するために傍に置いたのかもしれない」  躊躇いがちに尋ねてくるので、何故か強気に言い返すことになった。 「私が知ってる流惟さんは絶対、悪魔なんかじゃなかった……悪魔の資質を持ってたとしても、悪魔である自分を起こされる何かがあったはずよ。元々そんな、手段を選ばないようなヒトじゃないわ」 「……」
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