余話

18/33
前へ
/165ページ
次へ
 まだ俯いたままの少年は、その相手に対する不信に、少年自身が苦しんでいるように見えた。 「万一今の流惟さんが、狐魄を利用するようなヒトだとしても……それも、狐魄の幸せに繋がることなんじゃないかしら」  どんな形に見えたとしても、その根底は決して揺らがない。霊感という、ヒトの深い部分への感性を持つ娘は淡々と口にした。  俯く少年が、そこで何かを口にする前に。  少年はふっと赤く鋭い目に警戒を乗せて、少し前方の踊り場を全身の緊張と共に見上げた。 「……そーだなぁ、少年」  そこには何故か――涼やかで清雅な女性のものながら、まるで男のような口調の声が響く。 「あいつのことは多分……甘く見ないで正解だぜ?」  階段と階段の間の連絡部屋の扉から、まさに踊り場へ出てきた、黒い人影があった。 「……?」  立ち止まった少年の前に、にこにこと緩くも不敵に笑う人影。娘は思わずポカンとしてしまう。 「女の子……?」  人影は鎖骨までの黒い髪を、耳を隠す髪が残るくらい雑に一つに束ね、高い襟の上衣と短いひだの下衣を身に着けている。一見、娘と大きく年齢の変わらない出で立ちだった。 ――……キレイなヒト……。  白い肌を引き立てる黒。鋭く整った黒い目の顔立ちは、緩い表情でも言葉にできない威厳を伴っている。そのためなのかはわからないが、娘も少年も共に黙り込み、階上の相手を見上げることになった。  人影の横では、妙に大きい烏がしわがれた声で、突然人語で人影に語りかけていた。 「……!?」  しかしその内容は人影以外に伝わらないように偽装されているらしく、ふんふん、と烏を相手に納得する人影に、娘は大きく警戒心を強める。 「……気にするな。あんたにはアイツら、気付いてないから」  それだけ伝えてきた少年には、人影と烏の会話が、現状把握の特技からいくらかわかったようだった。 「アンタ――……アンタがこの城の、本来の主か?」  人影に向かってそんなことを尋ね、それに人影はどうやら大きく驚いているようだった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加