余話

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「ががーん。ナっちゃんと話しただけでそこまで言われるとは、オレもどうやら年貢の納め時?」  どうやらナっちゃんと呼んでいるらしい烏を下がらせ、人影は相変わらず、男のような口調で少年に対峙する。 「ていうかナっちゃんは、普通にこいつの眷属とも言えるのに……少年、オマエ、いったい何者なんよ?」  この期に及んで、にまーと形容するしかないような緩い笑顔を浮かべる。バンダナの少年は何故か不敵に微笑んでいた。 「そのスパイ以外の奴に、アンタの存在を知られたくなければ――さっさとその道を、俺に譲れ」  立ちはだかるかのような人影に、それだけが要求だと、少年はあっさり言ってのけた。  ふぅん、と人影は、改めて面白そうな顔付きで少年を見返す。 「オレの弱味を微妙に握っといて、それだけでいいん?」 「違う時に出会えば、アンタを家に帰したいかもな。でも……それもどうせ俺にはどうしようもない」  ほえ? とそこで、大きく首を傾げる人影に少年は言う。 「俺にアンタを捕まえる力はないし……アンタ達のことは、俺は邪魔したくない」  その時の少年の真の表情は、バンダナに隠されてわからなかった。  何故か少年はとても、続く緊張感の中でも、状況を楽しんでいる様子だった。  ふんふん、と、人影もよくわからない様子のままで一通り頷く。 「さすがは……あいつが養子にするだけはあるってこと?」  そして人影は、娘が唖然とすることをあっさり口にした。 「ところで少年。オマエを……オレにくれないか♪」  それはまるで、男前な口調の綺麗な相手から少年への求愛で、 「……今は、それはきけない」  少年はポカンとしながら、咄嗟にそんな返答を口にする。 「今はって何よ、今後ならいーわけ!?」  思わず叫んでツッコミを入れてしまった。人影が一瞬不思議そうに首を傾げたが、娘には気付いていない。 「よーやく出会えた……オレに相応しそうな奴なんだけどな」  ただ、不吉とも言える不敵な顔で、にやりと微笑んでいた。
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