余話

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 突然過ぎるこの状況に、娘は混乱を隠せなかったが、 ――何あのヒト……流惟さんの知り合い……!?  それだけ何とか把握する。人影は本来の城主という少年の言葉も、冷静に考え直す。 ――それならあのヒトは悪魔……? でも……。  娘の霊的な感覚はそれを否定する。どちらかと言えばその人影は、人間に近いとも感じ、余計に戸惑う。 「アンタは……ここの城主のことを知ってるのか?」  少年は改めて人影に、最初に抱くべき疑問を尋ねた。 「ただの親戚ってだけじゃなくて……それ以上を――」  この道を譲る話の他に、それだけは聞いておきたいとまっすぐ人影を見上げる。 「そーだなぁ。ホントならただの親戚で、それもあんまり深い付き合いにはならなさそーだったけどな」  人影はそこで、不思議なくらいに優しげな顔で微笑んだ。 「ホントにホントなら、あいつは妹か従妹……だったかも、な?」  心からの親愛を込めた声で、そう少年に告げる。少年はそれを訳はわからないまま、嘘ではないと受け止めたようだった。 「あいつはね、運命を変えるために現れた魔性の者なんよ――オマエの運命も、何か変えてくれるといいな、少年」  気安いながら何故か、宣戦布告のような響き。人影は再び綺麗に微笑んでいた。  その微笑みには、不吉なものしか感じなかった。  二度感じたその予感は、決して気のせいではない。無意識に少年の背の外套を、黒い羽の間からひしっと掴んだ。 「……?」  少年は不思議そうに、ちらりとだけ娘を振り返る。 「……話は終わりだ、そこをどけ」  娘を最上階まで送る、その本分に立ち返ったように、冷たい声色で人影に言い放った。 「仕方ないなー。この城ではオレも、ちょいと動きにくいしな」  くくく、と人影が、心から楽しげに少年を見て笑う。 「また会おうぜ、少年。今度はもーちっと、広い場所でさ?」  少年がそれに答える隙間もなく、ばさりと、傍らの大きな烏が翼を広げた瞬間に隠れるように消え去る。場ではその後、烏すらもすぐに飛び去り、静寂が戻ったのだった。
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