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娘が思い返すのは、約一年前に、突然義理の兄ができたと嬉しそうに笑って話した友達の姿だ。
――何かねぇ、弱々の引きこもりなわりに、強くならなきゃって必死な所がカワイイんだぁ。私もあんな感じだったのかな?
あの頃はゴメンね、とそこで娘に言うので、何が? と尋ねると、友達は珍しく苦く笑った。
――だって私、鶫ちゃん達に甘えてばっかりなんだもん。
……何処が? と娘は、心底不思議な気持ちでまた尋ねていた。
何故なら娘は常々、その友達を尊敬していた。
――ラピってしっかりしてるよね。
幼い頃に実の両親を失いながら、いつも笑顔を絶やさずにいる相手。トゲトゲとしていた頃ですら、運命を恨むような姿は一度も見せなかった。
――……そんなにしっかりしなくたっていいのに。
友達が恨んだとすれば一人、その運命を招いたと考えている、友達自身だけで――
せっかくお兄さんができたなら、甘えられるといいのに。
養父母の愛を独占できなくなった状態にも関わらず、とても嬉しそうにしている友達に、娘はそう願った。
だから娘は、それを少年に伝える。
「……狐魄は、アナタに会えて良かったんだと思う」
「――?」
少年はぴたりと立ち止まると、数段先から娘に振り返った。
少年は表情の隅に、また痛みを浮かべている。
「俺がいなければ、狐魄はいなかった気がするけど?」
「それなら狐魄がいるのは、アナタのおかげじゃない」
「――……」
失われてしまった誰かの代わりに、そこにいる誰かの抜け殻。それもそのまま娘は受け入れる。悲しくはあるが、悪いことだけではないはずなのだ。
それを受け入れて良いかわからず、少年は痛みを抱え続けている。精一杯の心を伝える娘を、しばらく苦い眼差しで見つめてくる。
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