余話

25/33
前へ
/165ページ
次へ
 つい先程までの表情であれば、目の前の銀色の髪の少年は、記憶喪失だった金色の髪の少年とは髪と目の色が違うだけだ。ここに来て本当に中身は同じに見えつつあった。 ――オレは別に、違う誰かになってるわけじゃない。  それを伝えられた時には娘は、彼らは別人だと感じていた。  その理由もおそらくは……少年が今感じている答と同じで。  銀色の髪の少年はやがて、冷たく無機質な顔のまま俯き、声を絞り出した。 「……俺は、狐魄が望むなら、またあんた達を殺しに行くから」  それが少年には、可能な限りの優しい現実。  少年は金色の髪の少年とは違い、娘達に仇なし得る存在。だから自分に関わるなという、誰かとよく似た心を告げた。  けれど娘には不思議な確信があった。  少年が従兄に敵わなかったのは、実力や体力事情だけではなかった。 「それは……アナタがそう思ってるだけだと思うわ」  敵わないことそのものが、この苛烈な少年の希みだったはず。迷いだらけの少年を従兄と同様に看破していた。  そもそも少年が口にしたもしもの状況は、到底有り得ないと、少年も娘もわかっている。  少年が守りたいものが、娘達の排除を本心から望むはずはない。それなら少年が娘達を排除する未来などない。  それでも自身が有害であると、あえて口にする少年は、本当に感じていた冷酷な現実の代わりにそう言うしかなかったのだ。それを娘は、全て察したわけではなかったが。  娘によぎるのは、少し前に、少年が今いるこの城へ旅立つ直前に話した金色の髪の少年の言葉だった。 ――オレが誰なのか、もう探さなくても良くなった。  娘達といる頃には、金色の髪の少年はずっと、自身が何を求めているのかを探していた節がある。銀色の髪の少年はその答を何処まで覚えて――知っていたのか……そして金色の髪の少年は何を得てその言葉を口にしたのかと、その時からずっと気になっていた。 ――じゃあ、今度帰った時には、訊いてもいいの?  そこで苦しげに微笑み、頷いた少年はいったい何者なのか。その時どうして少年は、娘達を避けるように一人でいたのか。  少年と娘達は何が違うのかと、先程尋ねてしまった娘。それはあの日の、少年は誰なのかという問いかけと、本質は同じだ。  だから今、少年が答えてくれるなら、あの時の続きをここできける。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加