余話

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 ……自分は、娘達とは違うものであると。  だから最早、自ら娘達に会おうとしなかった少年の答。 「俺は……――――から」  ぽつりと口にした少年の声を、娘が聞き取れなかったのは、それも少年の希みだったのか―― ――俺は……ヒト殺しだから。  娘には、そう聞こえた気がした。しかしそれを答にすれば、娘達と同じ世界に住めなくなるのは、少年だけではない。  少年の近しい者。今この忘失の暗幕を張り、娘達と行動を共にしている幼い誰か……処刑人の過去を持つ者も、娘達と線がひかれることになる。  それに気付くわけではなくても、少年のあまりの声の拙さに胸を衝かれた。戦いたくて「力」を鍛えてきたわけではない娘達。それを良しとできる少年は、本当は誰より戦いたくないものだったはずだ。  娘達の正体がわからない少年が躊躇った理由は、無意識のレベルであったとしても―― 「あんた達の前では……俺は殺したくない」  呟き、剣を小さな装飾具に戻して腕に引っ掛けると、少年はくるりと背を向けていた。 「ありがとう――……狐魄を、助けてくれて」  ずっとその悲鳴に気付きながら、自身は何もできなかったと。  僅かに俯きゆっくりと去っていく少年に、娘は息を呑む。  どんな言葉をかけたとしても、それは覆らない。  少年はもう振り向かない。悟った娘の中で、何かが堰を切って溢れ出した。 「でも私は……」  今伝えておかなければ、その青い目には二度と巡り会えない。不思議な確信だけが娘を後押しした。 「私はアナタのこと――嫌いじゃない」  ……ぴたりと。  去っていく少年の足音が、時間が止まったように凍りついた。
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