余話

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(あるじ)は鶫ちゃんじゃないけど、主のコへの寄生だけじゃ、狐魄は多分ヒトには成れないわ。獣でいる時間が長い程に、魂まで獣寄りになってしまうから、鶫ちゃん達さえ良ければ、まめに力を貸してヒト型にしてあげてほしいの」 「……わかりました」  女性の言う意味はなかなかに重い。呑み込んだ娘はすぐに頷いていた。  言ってみれば友人は、妖狐に憑依した状態だ。既に心は失われていると……記憶と魂だけが残るものの、それでは容易く妖狐に取り込まれる可能性があった。 「心が戻れば、主のコの成長後には、ずっとヒト型もとれるかもしれない。けれどそれは、ラピス次第だから」 「……じゃあ、ラピがもしも望むなら……」 「そうなの。本当に狐さんになっちゃうかもしれないけど……それでもまだ、あの子と仲良くしてくれる?」 「……」  こくりと頷く娘に、女性はとても安心したように儚げに微笑んだ。 「ありがとう……これでまた、わたしの心残りが消えた……」 「――え?」  その時の声の緩み方は、紛れも無く娘が知った友達の養母と同質だった。 「後一つ叶えば――……私も、消えられる」 「流惟さん……!」  ともすれば、これまでの友達以上に危うく見えた。その女性に娘は思わず、数歩距離を詰めて女性を見上げた。 「……帰って来て下さい。ユーオンと一緒に、ジパングに」 「…………」  元々女性は、友達によく同伴し、娘達とも顔見知りだった。実年齢とかけ離れた若い外見もあってか、大人にしてはとても気安く喋れた相手に、娘は直球に対峙する。 「私は何も、事情を知りません……でも、これ以上流惟さんが無理をして何かあったら、悲しむ人が沢山いるはずです」  差し出がましいことかもしれない。それでも引き止めなければいけないと、娘は……この最上階に戻るまでに出会った、あの不思議な黒い誰かの言葉を脳裏によぎらせていた。 ――あいつはね、運命を変えるために現れた魔性の者なんよ。  そう口にした誰かは、きっとこのこと……養女を妖狐としてまで留めた女性を指しているのだと、娘は感じ取る。
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