余話エピローグ

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 彼女はきっと迷子なのだろうと、その時娘は思っていた。 「――山科さん? どうかしたの?」 「……あ」  ジパングにしては珍しく、近代的な茶店で木製の円卓が間にあった。鎖骨までの紅い髪と同じ紅の目の少女の声で、赤い髪の娘は我に返った。  品書きを広げて固まっていた娘に、向かいに座る紅い少女は、くすりと虚ろな微笑みを浮かべる。 「ごめんなさい。もしかして、こういうお店初めて?」  着物姿で生粋のジパング娘に対して、西の大陸風――西洋物の上着を羽織る紅い少女が指定した店は、確かに娘は初めて入る所だった。 「ううん。ただ、竜牙(たつき)さんが珈琲頼んだの、意外だっただけ」  それ以上に目前の紅い少女と、初めて二人でお茶をする状況が新鮮だ。ふっと、相手が「魔」である事実を唐突に思い出した赤い髪の娘だった。 「南の城にいた時、よく淹れてもらってたの」  紅い少女はそれだけ答えると、何か思う所があったのか、窓の外へと不意に視線を泳がせていた。  「魔」とはその純度が高い程、糧となる何かを必要とする。  ハーフくらいになれば、ヒトを喰わずとも生きていける者も多いというが、紅い少女は明らかにそれより血の濃い「魔」に見える。  珈琲を静かに頼んだ姿に、いったい普段は何を糧としているのだろうと、思わず気になってしまった。 「それで……相談されてた件なのだけど」  紅い少女はすぐに本題に入り、女子会たる雰囲気は欠片もない。 「ヒトの力を与えずに、狐魄をヒト型にできるのかどうかというお話。結論を言えば、それならヒトを喰うか妖狐化しなさいと、狐魄に言ってあげて」 「……やっぱり、そうなるわよね」  純粋な魔力行使の魔道に長ける紅い少女と、念の力や霊力の扱いを得意とする呪術師の娘が、各々の専門知識を持ち合った結果は芳しくなかった。 「貴女達から力をもらうのを嫌がるなんて、狐魄らしいけど。ユーオンも狐魄も本当に似た者同士ね、諦めが悪いんだから」  さらりと突き放した声で、紅い少女は陶器に口をつける。娘は少し、その感想が不服だった。 「誰かの負担になりたくないっていうのは、私はわかるけど」 「でも別に、負担じゃないでしょう? 山科さん達は」  ……と、言葉に詰まる。目も合わせずに言った冷静な紅い少女だった。
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