余話エピローグ

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 狐の化け物になった友達の、義理の叔母だという紅い少女。  娘の前でぼけっと窓の外を眺め、訊かれたことに応え相槌を打つ以外、自ら何かを話そうとはしない。と言って、ここにいることが面倒なわけでもなさそうだった。 「……ところで……」  娘はそこで、ここに来たもう一つの目的を口にする。 「竜牙さんは何か、困ってることとかないの?」 「――?」  唐突な問いに目を丸くする紅い少女に、あえて素っ気無く先を続ける。 「竜牙さんには魔界に行く時、扉の番とか手伝ってもらったし。借りを全然返せてないから、何か落ち着かなくて」 「……別にわたしは、貸しと思っていないけど?」  そう言いつつも紅い少女は、娘の申し出自体には興味を持ったようで、飲み物に向けていた視線を上げた。 「でも、山科さんがいいと言うなら……ついてきてほしい所はあるわ」 「え?」  紅い少女のそうした反応も意外で、今度は娘が目を丸くする。 「ちょっと飛ぶけど。ついて来れそうかしら?」  そしてそれが、どれだけ無茶な要求であったか、その依頼を聞き届けた日に娘は身を持って知る。  遥かなる天上の鳥達の、遠い日の聖なる巣箱の残骸。  その「地」が存在するとは、実際そこに住んでいた者の子孫たる両親と叔父から教えられていたが……まさか、自分が行くことになるとは、思ってもみない事態だった。 「ここが……『地』なの? 竜牙さん……」 「そうよ。貴女のおじいさま辺りの世代が、住んでいた所だと思うんだけど」  「伊勢」に行こう。紅い少女にジパング有数の聖地に誘われ、ワープゲートであっさりと現地に着き、更にはそこから紅い少女に連れられて気付けば天空の島にいた。娘はひたすら唖然とするしかなかった。 「乱暴で御免なさいね。さすがにあの距離を、ヒト一人抱えて飛ぶ自信は無かったから」 「……別に。竜牙さんこそ、大丈夫だったの?」  紅い少女の急拵えの魔法で、娘は小さな鳥にされた。聖地の力を借りて透明な羽で飛ぶ紅い少女を必死に追いかけ、何とかこの天空の島まで辿り着き、やっとここで、その魔法を解いてもらえた次第だった。  紅い少女はフウ、と、娘の見立て通り、相当体力を消耗した様子だ。そのせいか、心なしか、雰囲気が揺らいで見えた。
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