余話エピローグ

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「まえまでのわたしなら、難無く行けたんでしょうけど。……やっぱり、わたしは彼女とわたしが同じとは思えないわ」 「……?」  かつて天空の島に住んでいた、天上の鳥の血をひく存在。  紅い少女の前身がその天上の鳥であると、少女の同居人から聞いてはいた。 「ここが――竜牙さんの住んでた所なの?」  天上の鳥の羽を移植された「魔」である紅い少女。その羽の主……この天空の島に住んでいた旧日の少女剣士が、紅い少女の命の基盤であり前身。  しかしその剣士の記憶も力も失われたという。今の紅い少女は自らを、ただ「魔」と見なしているとも、娘は話を聞いている。  それを知ってか知らずか、紅い少女は答える。 「……まえのわたしが、住んでいた所と言うべきでしょうね」  ……でも、と。これまでになく拙げな雰囲気で、紅い少女は荒れ果てた廃墟を見つめていた。 「でも……ここを見ていると………」  まるで胸が痛むとでも言うように、紅い少女は静かに胸元を押えている。虚空を見据える紅い目は、大きく澱んで見えた。  その深みには今は触れず、娘は淡々と尋ねる。 「竜牙さんはどうして、私をここに連れて来たの?」 「……」  ついてきてほしい所があると、はっきり口にした紅い少女の意図。それは全く説明されていない。それでもその依頼を引き受けた娘に、紅い少女は無表情のまま振り返った。  僅かに躊躇うように俯き、紅い少女はその理由を口にする。 「……わたしには霊感はないから。山科さんに、ここの様子を教えてもらいたかったの」 「――え?」 「ここにはまだ、眠れないヒト達が沢山いるって……クアンとクラルさんに、聞いたことがあったの」  紅い少女が口にした名前は、娘の身内の仲間と、その子供のものだ。紅い少女も本来、その血縁に当たるはずと聞いていたが、今の紅い少女はその彼らにも距離を置いている様子でもあった。 「ねえ。ここにはそんなに……まだ、何かが残っているの?」  伏し目で尋ねてくる紅い少女に、娘は少しだけ悩んだ後に――……ありのままの答をそこで伝える。 「……いいえ。きっと――竜牙さんの探しているものは、何も残ってない」  この場所に住んでいたはずの紅い少女の前身。それに纏わるものは全て、とっくに失われているだろう現実を。
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