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瑠璃色の髪の幼女は、元々朝が弱い。幼い躰も相まってか、陽が昇っても寝床から起き上がれなかった。
対して朝からしゃっきり、淑やかな微笑みをたたえる鎖骨までの紅い髪と目の少女が、情け容赦なく幼女を起こしにかかった。
「おはよう、エルフィ。今日もいい天気みたいよ」
「……ううん――……」
寝付いたのが遅い時間だったこともあり、ついついぐずる。紅い少女は幼女から布団を引き剥がし、窓を開けて日差しを部屋に入れる。
「今日は起こしてねって頼んだのは、エルフィよね?」
くすくす、と幼女の眠る寝台に腰掛け、振り返るように見つめてくる紅い少女。既に外出用の出で立ち……頭巾のような被り物がつく上着に、短いひだひだの下衣を身にして、近代的な都市ではよく見られる少女らしい格好をしている。
「烙人と買い物に行きたいんでしょ? と言っても烙人もまだ寝てるけど……エルフィの意向を確認しないと起こせないわ」
「……ん……」
些細なことでもこうして、幼女の意思を確かめる紅い少女は、基本的に主体性が無い。それもそのはず――紅い少女が水華と呼ばれていた頃には、少女が背に生やす羽に宿る魂の言いなりだった、人形の性の生き物なのだ。
眠気に負けた。今はこうして、幼女の人形になることを楽しんでいる相手に、頼んだ前言をあっさり撤回した。
「……やっぱり……水火と二人で、行って来て……」
あらあら、と紅い少女は、寝床から動かない幼女から視線をずらす。
「それじゃ、『ピアス』を連れていく? 何かあればわたしを直接、『ピアス』で動かしてくれていいしね」
「うん……そうする……」
枕元のぬいぐるみ、「ピアス」と名付けられた灰色の猫を紅い少女が手に取る。心なしか少しだけ、小悪魔のような顔付きで笑う。
「それじゃ、ゆっくり休んでね。お休み――エルフィ」
紅い少女がそのぬいぐるみを手に、部屋を出て行くと同時に、幼女の意識もすぐに遠くなった。
「――ほら、烙人。もうレイアスもユーオンも、とっくに出て行っちゃったわよ」
「……あー……?」
そして横たわる幼女の視界は、紅い少女が大切そうに抱える、灰色猫のぬいぐるみからの情報に占拠される。
「これからしばらく、烙人がわたし達の保護者なんでしょ? ちゃんと保護責任は果たしてもらわなきゃ」
「……ぁんだ、そりゃ……」
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