閑話

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 その日はまるで、夜空が瑠璃色に見えるほど、明るい満月が京都の街々を照らしていた。 「……――あれ? ラピちゃん?」  街の要所、「花の御所」に住む友人を訪ねた帰り、深型の帽子をかぶり直した少年は、よく連絡を取り合う友達を道の先に見つけた。  街を流れる小川の小さな橋で、瑠璃色の髪で深い青の目の娘が、笑って少年に手を振っている。 「ただいま。くーちゃん」  元々放浪家の両親と共に旅がちであり、娘は少し前から、京都より南の草原にある自宅を空けていた。帰ってきたのだ、と少年は橋まで駆けよる。 「元気してたー? どーしたの、こんな夜に」 「うん。帰ったばかりなんだけど、またすぐ出ることになったから、急いで来たんだぁ」 「え? そーなの?」  それはさすがに忙しない。また異国の土産話が聞けるかと思ったが残念だった。 「それだったら、蒼ちゃん達にも会わないでいーの? 良かったら御所まで一緒に行くよ」  娘の自宅からの道順を考えると、まだそこには行っていないはずだ。夜道を一人で歩かせるわけにはいかぬ、と明るく笑いかける。 「ううん、くーちゃんきっと、御所から出てきたばかりでしょ? 二度手間だからいいよ」 「えぇー。先に伝話くれたら、蒼ちゃん達も連れて出て来たのにー」 「それがねぇ、ひどいんだよー。ユーオンが私のPHS、壊しちゃったんだぁ」 「ええ⁉ ホントに⁉」  娘の常々優しい義兄の、突拍子も無い行動を、娘が楽しげに口にする。 「慣れない物触るからいけないんだよねぇ。仕方ないから、こーやって直接来たんだよ」 「そーだったんだ……ビックリだねー」
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