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 そんな男に追い打ちをかけるように、紅い少女は更に少し、違った口調と明るい顔で微笑みを浮かべる。 「あれれぇ? 私は単に、烙人の要求通りにしたつもりなんだけどなぁ?」 「……ラピスまでレパートリーに増やしたのか、お前は」 「えへへへー。正確にはちょっと違うけど、まぁラピと言って間違いではないかなぁ、これも」  そうして、失われた様々な誰かの真似を楽しむ人形。加えて新しい養子、以前の養女の体を使う幼女と、少女達の元の姿を知る男の思いは複雑そうだった。  それでも二人を助けてほしいと、旧い仲間のたっての願いで、紫苑の男はしばらく滞在することを決めた。  危うげに明るく、楽しげに男の腕を引っ張る紅い少女について、その雑魚寝部屋を後にしたのだった。 「……――……」  近い部屋のそうした一部始終を、魂無く横たわる瑠璃色の髪の躰は、まるで夢に観るように情報を受け取り続けた。 「水火の……ウソつき……」  寝言のようにそれだけ……素直な哀しみを口にした。 +++++  紅い少女と紫苑の男が、手提げ型の買い物籠に灰色猫を詰めて買い物に出る。その家がある平野の閑散とした人里から、北に位置する盛況な街「京都」に出向く。  世界地図で中央に位置する「ジパング」という小さな島国で、京都は更に中心地にある。中でも一番大きな商店通りで、少女と男が思いもよらない出会いをすることになったのを、全て灰色猫から瑠璃色の髪の幼女は探知する。 「……水火、借りるね」  一人自宅で、明るい部屋の寝台に横たわったままで。幼女が把握した現状を、遠隔地の少女を通して男に伝える。 「ねぇ、ラクト……あそこにいるヒト、ラピスの友達みたい」 「――は?」  くいくいと紅い少女が、買い物籠を持っていない手で、その街に合わせた男の格好――洒落た黒い裾よけの覗く、薄い蒼の着流しの袖を引っ張る。振り返る男を完全な無表情で見上げた。 「ってお前――水火じゃなくてピアスか?」 「うん。わたし、あのヒトと会ってみたい……行っていい?」  瑠璃色の髪の幼女がそうして、灰色猫に宿った魂をメインに活動する時は、本名でなくそう呼び分けられている。  紫苑の男は少女の視線の先を改めて確認する。
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