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強い「魔」の血をひく紅い気配の接近に、霊感が強いという赤い髪の娘はすぐに気が付いていた。青みがかって凛とした黒い目を、不思議そうに紅い少女へ向ける。
「こんにちは。ちょっと、お尋ねしていい?」
「――え?」
紅い少女が至って直球に話しかける。人間ばかりの街に突如現れた異国者、それも強い「魔」に不審げな赤い髪の娘に、虚ろに笑いかける。
「この辺りで、瑠璃色の髪の女の子を見なかった? 暗いけど珍しい髪の色だから、目立つと思うんだけど……」
「……見てないけど……その女の子が、どうかしたの?」
同じ髪の色で、親密な友達がいるはずの娘。その問いは聞き流せないはずだと紅い少女は尋ねた。
「捕まえたいの。わたしからずっと逃げ回ってるの」
言う者によっては不穏ともとれる内容。にこにこと言う紅い怪異に、赤い髪の娘は大分警戒したようだった。
しかし赤い髪の娘は、すぐにその話に興味を失ったように……不自然さすら伴う、平静な顔付きで紅い少女を見返してきた。
「ごめんね、私にはよくわからないわ」
淡々と答える赤い髪の娘。それは全く本心の様子だった。
「貴女は……瑠璃色の髪の女の子に、何も心当たりはない?」
微笑みながら食い下がる紅い少女に、ええ、と頷く。赤い髪の娘は、紅い少女そのものに関心を失くしたようにも観えた。
「……ありがとう。呼び止めてごめんなさい」
それ以上は食い下がるあてがなく、紅い少女は場を後にして、束の間の出会いをすぐに終えることになった。
赤い髪の娘から離れてから、紅い少女は灰色猫を取り出すと、猫の黒く大きな両目を見つめて首を傾げた。
「……どう考えても、怪しいのにね、わたし」
「魔」である紅い少女を不審者と気付きながら、相手はその不審さに全く触れようとしなかった。あまつさえ――
娘の友達が不穏事に巻き込まれたような、カマかけの内容。それをあっさりと流した赤い髪の娘の反応は、紅い少女も灰色猫もいくらか想定外のものだった。
「確かに最初は……ラピを知ってるあのコをわたしが知ってて、わざと声をかけたって、気付いたみたいなのにね」
まるで途中から、その気付きそのものを消されたようだった。
本来とても鋭いはずの娘の不自然な反応。この段階では、紅い少女も灰色猫も、実態に思い至ることはできなかった。
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