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 かなり不消化な事項をそのままに、商店通りに消えていった紫苑の髪と目の連れを探し、紅い少女は歩き出した。 「わたしが知ってる限りでは……ラピはよくあのコ達のこと、嬉しそうに水華に話してたんだけど」  籠のない手に抱えた灰色猫に話すように、少女は無表情に続ける。 「結局わたしが水華の内は、会うことはなかったけど。ラピがレイアス達に拾われてジパングに住み始めてから、ずっと……ラピがいつも笑っていられるようになったのは、あのコ達と知り合ってからだって、アフィも言ってたわ」  紅い少女が口にする名――瑠璃色の髪の娘の養父母は、紅い少女には義理の兄姉にあたる。だから形だけなら、紅い少女は年下なのに、瑠璃色の髪の娘の叔母となる。身内として知っていた瑠璃色の髪の娘の思いを教えてくれる。 「ラピは自分も含めて、弱い人間が本当は大嫌いだったけど。だからこそ、人間とか化け物とか特に考えない、優しくて強い混血のあのコ達が大好きだったみたい」  灰色猫もその思いは、先程赤い髪の娘を初めて目にした時にわかった。  赤い髪の娘は、つれない見た目に反して気配が温かった。瑠璃色の髪の娘の癒しが、確かにそこに在ったと感じられた。 「ユーオンはラピのこと……ラピが消えちゃったこと、あのコ達に自分から伝える気はないみたいだけど」  くすくす、と紅い少女が、虚ろな微笑みを浮かべる。  瑠璃色の髪の娘には兄貴分だった少年。約一年前に拾われた金色の髪の養子も、妹分の友人達と半年前に出会っているのだ。 「それってどうなのかしらね? ラピがもう何処にもいないこと……ユーオンだって仲良しのあのコ達に、ずっと隠して生きていくつもりなのかしら?」  あまり自ら語らない少年の真意を、義理の親戚位置の紅い少女は知りようがない。少年の妹である灰色猫に尋ねるように、目線を手元に向ける。 「エルフィは……どう思っているの?」  直観という特技で、周囲の思いや現状を感じる灰色猫と、特定者の人形である紅い少女の感受性は違う。紅い少女の思いがある程度灰色猫にわかっても、灰色猫の方の思いは、紅い少女がその躰を貸し、自我の手綱を灰色猫に渡している時にしかわからないだろう。 「それがラピの望みだから……それでいいのかな?」  誰にも知られずに、この世から消えたい。それが瑠璃色の髪の娘の望みだと、紅い少女は娘の最後の時に知った。  それが可能ならいいのにね、と、ただ虚ろに微笑み呟いていた。
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