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「アナタは何て言うの? 名前教えてほしーな」 「僕? 僕は猪狩(いがり)槶、京都在住だよ♪」 「へ~。アナタもジパングの人っぽくないけど、何かすっごくいかつい名前してるねぇ」  ぐはあ! と帽子の少年がのけぞる。初対面の少女に身も蓋も無い指摘を受けて、ショックを受けるように胸元を掴んでいる。 「それよく言われるけど、大人しげなのに何と直球な竜牙さん! 何だろこの感じ、竜牙さん僕と何処かで会ったことない⁉」 「気のせい気のせい~。私と槶君は確実に初対面だよー」  その紅い少女が、帽子の少年とよくPHSで連絡を取っていた瑠璃色の髪の娘を真似ていると、少年は知る由もない。  それでもおそらく、瑠璃色の髪の娘を僅かに感じただろう帽子の少年に、さらりと傍らで、黒い女が落ち着いた声をかけた。 「……そうかな? 全然似てないと思いますよ、槶君」  数瞬後には、あれ、と紅い少女が目を丸くする程に、帽子の少年がすぐにも平静な状態に戻った。だよねー、と、何事もなかったように明るく笑う。  しかしそこで、帽子の少年自身も何かの違和感を持ったらしい。 「……あれ。誰に似てないんだっけ」  笑顔のままで首を傾げる。紅い少女は無表情に見つめる。  それでもそれは、違和感を超えることはなかった。 「そうだよね、竜牙さんとは初対面だよね。ヘンなこと言ってごめんねー、竜牙さん」 「……」  平和な顔でアハハと笑う少年に、紅い少女は少しの間、ふむと考え込む素振りを見せた。  そして紅い少女はただ、現状の片鱗に触れるために、本来の敏い性質で再びカマをかける。 「(うつぎ)……瑠璃」 「――え?」  その少年が知ったはずの者。この国で届け出られている、誰かの別名を口にした。 「私、棯さんって所に居候してるんだ。京都からはもう少し、南にある人里なんだけどね」 「それって……ラピちゃんのお家じゃない?」  驚いて息を呑んだように、帽子の少年が紅い少女を見つめる。  少年の知る瑠璃色の髪の娘の、普段は使われていない名前。それをしみじみ思い出したことに加えて、紅い少女が共通の知人を持っていることにも思い至ったようだった。  そして帽子の少年は、紅い少女と灰色猫を静かに驚嘆させる台詞を、その後に続けることになる。
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