3人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「でも、ラピの知り合いに会えて良かったなぁ。京都ではまだ全然、頼れるヒトがいなくて困ってたのー」
「そっか、そうだよね。竜牙さんも引っ越してきたばかりって、さっき言ってたよね」
それなら、と帽子の少年は人の好い顔で紅い少女の手をとり、朗らかに笑った。
「良かったら今度、他の友達にも竜牙さんのこと紹介するよ。みんなラピちゃんのことも知ってるから、ラピちゃんの妹さんも一緒に連れておいでよ」
「本当? 嬉しいなぁ、槶君って優しいねー」
淑やかでもきらきらとした目で帽子の少年を見つめる少女に、あはは、と照れ臭そうにする。
「明日はちょっと用事があるから、明後日の朝にまた、ここに来てもらっていい? みんながいる所に案内するからさ」
「うん、わかった。よろしくお願いするね、槶君」
そうして帽子の少年と少女の話が一段落したところで、話の邪魔をしないように黙っていた黒い女が視線を向けた。
「そろそろいいですか? 槶君」
「あ、ごめんねスカイさん。まだ京都案内の途中だったよね」
「すみませんねぇ。休暇中とはいえ、営業職にはどうしても、次の仕事の足場固めが必要なもので」
それじゃ、と黒い女は、紫苑の男にひらひら手を振って背を向けた。
「さわらぬ神にたたりなしですよ――烙人君も、水火さんも」
帽子の少年とは顔見知りで、たまに手伝いを頼んでいるらしい。毒も害も無い仕事らしき活動のため、夕刻前の川辺を後にした女達だった。
帽子の少年と黒い女が去った後で、紅い少女は改めて――
まだ不服且つ複雑そうに黙る紫苑の男を、虚ろな微笑みで見つめる。
「あのヒトは誰だったのかしら? 烙人」
「……」
「何だか烙人とは親しげに見えたけど……わたしの気のせい?」
――けっ、と。少女を見ずに川辺に背を向け、歩き出した男に続く。
「オレのヨメ……によく似た、名前までほぼ同じっつー意味のわからない、多分人間の妙な女だよ」
さらりと男は、顔見知りではあった黒い女を思い浮かべ、不満そうに大胆な事情を口にした。
最初のコメントを投稿しよう!