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「烙人のお嫁さん? そんなヒト、いたかしら?」 「この世界の時間軸では、十年前かな。西の大陸で告ったけど、ずっと拒否って逃げ回ってんな」 「それ、完全にストーカーじゃない? 怖いなぁ、烙人みたく一途なヒトに想われるとそんなことになるのね」  黒い女が口にした、男の「探し人」という言葉。そこでやっと、紅い少女は納得したようだった。 「まぁあのヒト、何か普通の生き物じゃない感じもするし……烙人の探し人がどんなヒトか知らないけど、あのヒトはやめておいた方がいいと思うわ」 「言ってろ。ヒトのこと言えた義理かよ、水火も」  危うげに明るい娘口調から、すっかり虚ろな常態に戻った紅い人形に、呆れたように言う男だった。  それにしても――と。男と少女、どちらからともなく、一番不可解であった事柄をそこで口にする。 「槶が会ったラピスっていうのは……いったい何者なんだ?」 「……そうよね。もうとっくにラピは、成仏してるとばかり、思ってたんだけど」  ――と男は、怪訝そうに紅い少女を見つめる。 「水火はそれは――ラピス本人だと確信してるのか?」 「そうじゃない? だってわざわざ、ラピを騙ってラピの友達に会いに行くなんて暇なこと、誰もしないと思うわ」 「まぁな……でもそれだと、余程霊的素因の強い人間でないと、単独で現世に干渉するのは死者には無理だぞ」  既に消えた存在の、瑠璃色の髪の娘と会ったという帽子の少年。何の違和感も与えない姿で娘は現れたはずだった。 「そうよね……もやっとした霊体とかじゃなかったなら、凄く強い力を持ったヒトに降霊されるか、槶君が有り得ない程強い霊感を持っているかしか、思い当たらないわ」  瑠璃色の髪の娘自身には、自らをそこまでこの世に再現する力はない。それは少女にも男にもわかりきったことだった。 「これは……エルフィと辻褄合わせが必要ねぇ」  この川辺の一部始終も、灰色猫を通して観ていたはずの幼女。紅い少女はあっさりと、自身で事の真相について、考える徒労をそこで放棄した。  紅い少女がそうして、現状把握に優れる幼女の力を期待した通りに。  夕方に自宅に帰り着き、灰色猫が傍らに戻ると共に、やっと目を覚まして起き上がった幼女は開口一番に、既に観えていた所見の一部を口にした。
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