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「ラピスはもういないけど。ラピスの一部が、まだ彷徨ってる」 「――どういうこと? エルフィ」  ここから活動開始とばかりに、幼女は長い髪を左側で一つに束ねる。黒く長いリボンできゅっと結び、無表情にきょろきょろと辺りを見回す。 「ラクトは……体が悪いの?」 「みたいね。帰ったらすぐ、寝床に引っ込んじゃったわ」  そっか、と少し残念だった。戻った灰色猫をぎゅっと抱える。  そしてそこで――それまでずっと考えていた思いを、寝台に座ったまま、初めて紅い少女に伝えた。 「……あのね、水火」 「――?」 「わたしは――ラピスに帰ってきてほしい」 「……エルフィ?」  紅い少女は何の情も浮かべず、ただ澄んだ紅い目で幼女を見つめる。隣に腰掛けている紅い少女に、幼女は躊躇いを持ちながらも続ける。 「水火も手伝って。わたし一人じゃ、それはできないと思う」  それは――と少女は、不思議そうに幼女を見つめた。 「別にいいけど。どうしてわざわざ……そうやって頼むの?」  自身は元から、幼女の人形であると。それなのにあえて協力を要請する幼女に、紅い少女が虚ろに微笑む。 「……」  それは言い辛いことだった。幼女は暗い青の目……瑠璃色の髪の娘の深い青より、僅かに色が薄まった目で、少女の紅い目をじっと見つめ返す。  そのまま黙り、何も答えない幼女に、紅い少女は改めて微笑む。 「よくわからないけど。とりあえずわたしは、何をするの?」 「……兄さんと父さんには、心配するから内緒にしてね」  それは必須と、少女を無表情に見つめる。あら、と楽しげに口元を押えて、紅い少女は笑いを堪えていた。 「二人共、魔界に行ったばかりだし、早々帰らないと思うけど」 「ラピスも、魔界にいると思う……兄さん達が助けに行った、母さんのそばに」 「――あららら?」  そこで心底、意外とばかりに、紅い少女が首を傾げる。 「今日のことだけで、どうしてそんなに色々わかるの? エルフィ」 「ラピスはあのヒトには……お別れを言ったんだと思う」 「あのヒトって――槶君のこと?」  こくりと頷く。瑠璃色の髪の娘は母の元に行くと言ったと、帽子の少年は屈託なく伝えた。そこから幼女が考えた推測だ。  でもそれは、と、紅い少女は困ったような顔で微笑む。 「ラピは、本当のお母さんと一緒に成仏したんじゃない?」 「……うん。それもそうみたい」  だから彷徨っているのは一部だと、少し前に気が付いたある事実を先に続けた。
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