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「ラピスは悪魔と契約して、生きてきたから」
枕元に置いてある、壊れたPHSをそこで手に取る。
「契約が終わった後はラピスの魂は……悪魔にとられちゃったはずだから」
そのPHSに取り付けられていた守り袋。瑠璃色の髪の娘が大切にしていた物がない。魂といえるほどに大切な物だったはずなのに。
そうした魂の媒介たり得る物が消えることの意味を、正確に把握できる幼女にはある理由があった。
「……なるほどね。そう言えばエルフィ、ちょっと前までは、生粋の悪魔使いだったものね」
赤い天使の人形のみならず、幼女は数々の悪魔の宿る人形を操っていた。それを傀儡としていた前身。紅い少女も凛とした目で幼女を見返して頷く。
「エルフィは魂だけが、今もピアスの珠玉にあるみたいに……ラピ自身は成仏しても、魂だけが何処かに残って、契約の代償に奪われたはずということね」
「うん……それでラピスが何処に行ったのかは、わたしもわからなかったけど」
それが今日、帽子の少年との出会いで糸口が掴めた。力強い思いで紅い少女を見上げた。
「ラピスはきっと――母さんの所に行きたかったんだよ」
幼女は未だにその母に会えていない。瑠璃色の髪の娘はどれだけ、その養母を慕っていたか――
それをたとえ、幼女は知らなかったとしても。養母の方も、何も動かず養女を手放すことはなかったのだと、この先に知ることになる。
「シルファの心は、シルファのお母さんと一緒にいっちゃったけど。ラピスの魂はきっと、母さんの所にいると思う」
「でもエルフィ……それは……」
紅い少女は少し悲しげに、諭すような目で幼女を見つめた。
「魂はあくまで、ヒトの自我と精神を司る、一時的な表層意識の力に過ぎないわ。エルフィの魂がわたしを動かしている時も、わたしは結局、わたしであるように」
「……」
博識な魔道の徒である紅い少女が、幼女の胸に冷たい手を当てた。
「理性や精神、そんな脆弱で不安定な高位の自我じゃなくて。エルフィがエルフィである理由……エルフィの本当は――命と心は、こっちにあるのよ」
だからたとえ、瑠璃色の髪の娘の魂が、何処かに残っていたとしても。それは本人でなく残滓に過ぎないと、紅い少女が現実を口にした。
「ラピは……シルファは多分、二度と戻っては来ないと思う」
それは金色の髪の少年からも告げられた、厳然とした事実だ。安らぎを得たはずの幸薄い娘の、切なる願いだった。
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