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わかってる――と。瑠璃色の髪の幼女は、紅い少女を見返して呟いた。
「それはわたしの我が侭だから。うまくいかなくてもいいの」
「……」
「水火も兄さんも、反対なのはわかってる。二人はもう……シルファを眠らせてあげたいんだよね」
だから協力してくれるかを、あえて尋ねた。紅い少女は困ったような顔で笑った。
「わたしは反対というより、無理と思っているだけよ」
「…………」
「ラピ、頑固だったからなぁ。でもエルフィの気が済むなら、何をすればいいか言ってくれたら、いくらでも付き合うわ」
普段通り笑って言う少女に、幼女もうん、と無機質に頷く。
とりあえず、と幼女は、更に爆弾発言を続けた。
「シルファのお母さんに、会いにいきたい。連れてって、水火」
「――はい?」
笑顔のまま紅い少女が、理解不能な内容に思考を止める。
「今日の黒いヒト、シルファのお母さんだった。だからあのヒトと楽しそうに一緒にいたんだよ」
「って……槶君といた、あの女のヒトのこと?」
「うん。黒いヒト、シルファの友達のこと、みんな好きみたい」
? と微笑む少女に、幼女は溜息をつく。紅い少女はかなり敏い方なのだが、幼女の直観が導く話にすぐについてこられるのは、やはり兄くらいだろう。
「躰が痛みそうだから、あんまり会いたくないけど。あの女のヒトの躰は、シルファを殺した本当のお母さんの体だよ」
どうしてそうなったかまでは、今は重要ではない。根拠なき事実だけを伝える幼女に、少女もあまり疑わずに飲み込んでいく。
「それはまた……烙人は本当に、変なヒトと知り合いなのね」
「ラクトは知らないと思う。中身は多分お母さんじゃなくて、シルファに住んでた神様に近いヒト」
ということは、と、紅い少女がまた目を丸くする。
「もしかして……エルフィ……」
「うん。あの女のヒトにも、記憶を奪える力があるみたい」
それが本日出会った様々な違和感の源だ。赤い髪の娘や帽子の少年から、瑠璃色の髪の娘に関する意識が消える不自然。それを既に把握していた。
「水火も今日、ラピスの友達に、あんまりラピって口にしちゃいけない。みたいなヘンな圧力、かかってなかった?」
「へぇ……そういう形の間接介入も、ありということなのね」
そのためわざわざ、「棯瑠璃」と無自覚に言っていた紅い少女は、なるほど、とぽんと手を打った。
「それって、会って大丈夫かしら? わたしもエルフィも、あの神様には乗っ取られかけた身の上なのに」
「大丈夫だよ。わたし達の方が本家だから」
「ふぅん。何だか色々、ラピの置き土産が残ってるのね」
様々な運命的出会いの日。自身で口にしておきながらも、紅い少女は感心したように軽く息をついた。
「本当、エルフィ達の直観って伊達じゃないわね」
その日はそうして、当座の話は終わったのだった。
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