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 ゆっくり堤防の上に戻ってきた幼女を、付添いの紅い少女が出迎える。 「お帰り。お話は終わったの? エルフィ」 「……うん。水火」 「どう? ラピのこと、何か進展あった?」  外界には基本興味の無い紅い少女が、社交辞令に近い調子でも尋ねるのは珍しい。紅い少女にとってもやはり、無視できない存在であることを示している。 「全然。わたしじゃやっぱり、無理みたい」 「そうなんだ。ユーオンやレイアスに内緒で来たのに、残念ね」 「兄さん達は絶対に心配するから、今後も言わないでね」  まだまだ外出する気満々の幼女に、くすりと少女は、虚ろでも楽しげに笑った。 「エルフィの考えることはわからないわ。何か一つでも、勝算はあるの?」  そもそも幼女の目的は無理と、少女は諦め切っている。それでも動く気の幼女に、整い過ぎた顔で微笑む。 「エルフィはユーオンより視野が広いから。何か観えてることはあるんだろうけど」 「…………」  現状の把握を、五感に依存する兄とは違い、幼女は気配が感じられる範囲……頑張れば町一つカバーできる感覚を持っている。 「あのヒトが、ラピスを返してくれたら……ラピスの友達にも手伝ってもらえると思う」  自身だけでは目的は叶わないと知っている。だから直接黒い女を観にいって、把握できた現状を改めて説明する。 「ラピスの友達はあのヒトの力で、ラピスがいないことがわからないようにされてる。それがラピスの望みだったから」 「そう。それは、ラピらしいなぁ」 「でもその力の影響がなくなって、ラピスがいないってわかったら。……帰っておいでって、友達からラピスに言ってくれたら……きいてくれる気がする」  そうかな? と虚ろに微笑む少女に、無表情のままで頷いた。 「ラピスは……まだ、帰ってこれる」 「それは――エルフィの躰にってこと?」  元々は幼女を助けるために、その体をくれた相手だ。命を分ける気かと、紅い少女は問いかける。 「それもできるけど。それはしないと思う」 「そうよね。それなら他に、方法はあるの?」  そこで幼女はもう一度、力強く頷く。 「きっと……何か、できることはある」  まだ馴染み切っていない躰のため、無表情になりがちの顔で、特に根拠はないながらも努めて笑う。  そのまま相方である紅い人形と、黄昏の川辺を後にしたのだった。 +++++
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