3人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆっくり堤防の上に戻ってきた幼女を、付添いの紅い少女が出迎える。
「お帰り。お話は終わったの? エルフィ」
「……うん。水火」
「どう? ラピのこと、何か進展あった?」
外界には基本興味の無い紅い少女が、社交辞令に近い調子でも尋ねるのは珍しい。紅い少女にとってもやはり、無視できない存在であることを示している。
「全然。わたしじゃやっぱり、無理みたい」
「そうなんだ。ユーオンやレイアスに内緒で来たのに、残念ね」
「兄さん達は絶対に心配するから、今後も言わないでね」
まだまだ外出する気満々の幼女に、くすりと少女は、虚ろでも楽しげに笑った。
「エルフィの考えることはわからないわ。何か一つでも、勝算はあるの?」
そもそも幼女の目的は無理と、少女は諦め切っている。それでも動く気の幼女に、整い過ぎた顔で微笑む。
「エルフィはユーオンより視野が広いから。何か観えてることはあるんだろうけど」
「…………」
現状の把握を、五感に依存する兄とは違い、幼女は気配が感じられる範囲……頑張れば町一つカバーできる感覚を持っている。
「あのヒトが、ラピスを返してくれたら……ラピスの友達にも手伝ってもらえると思う」
自身だけでは目的は叶わないと知っている。だから直接黒い女を観にいって、把握できた現状を改めて説明する。
「ラピスの友達はあのヒトの力で、ラピスがいないことがわからないようにされてる。それがラピスの望みだったから」
「そう。それは、ラピらしいなぁ」
「でもその力の影響がなくなって、ラピスがいないってわかったら。……帰っておいでって、友達からラピスに言ってくれたら……きいてくれる気がする」
そうかな? と虚ろに微笑む少女に、無表情のままで頷いた。
「ラピスは……まだ、帰ってこれる」
「それは――エルフィの躰にってこと?」
元々は幼女を助けるために、その体をくれた相手だ。命を分ける気かと、紅い少女は問いかける。
「それもできるけど。それはしないと思う」
「そうよね。それなら他に、方法はあるの?」
そこで幼女はもう一度、力強く頷く。
「きっと……何か、できることはある」
まだ馴染み切っていない躰のため、無表情になりがちの顔で、特に根拠はないながらも努めて笑う。
そのまま相方である紅い人形と、黄昏の川辺を後にしたのだった。
+++++
最初のコメントを投稿しよう!