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「どうしたの? 猪狩君」 「え、いや……竜牙さん、そんな大人しかったっけ?」  虚ろに微笑む紅い少女は、そう言えば先日は瑠璃色モードだったと思い出していた。 「猪狩君って呼ばれるのも、そう言えば意外に少ないかも」 「そうね。わたしも、竜牙さんって呼ばれることは少ないわ」  ここでまた切り替えるのも不自然だろう。このまま紅の常態でいこうとあっさり開き直っていた。  そしてそんな些細な違和感を、帽子の少年は――紅い少女の傍らに立ち上がった幼女の姿に、すぐに吹き飛ばしていた。 「うわあ! ラピちゃんそっくりだあ! ホントのホントに、ひょっとしてラピちゃんの妹さん⁉」 「……」  無表情に見上げる、灰色猫のぬいぐるみを抱えた幼女。帽子の少年は感極まった様子で、思わず突然抱き上げてきた。 「可愛いーちっちゃいー! 君、名前何て言うのー⁉」 「……――」  幼女がぬいぐるみを抱えているように、幼女を抱えて嬉しげに頬を寄せる。  その温かみに声も出せない程、ささやかに衝撃を受けた。それに気が付いているのは、おそらく傍らに佇む紅い少女だけだった。  ――ホラ。と紅い少女が、帽子の少年のぬいぐるみと化した幼女に、助け舟を出すように肩を叩く。 「ちゃんと猪狩君に挨拶しなきゃ、エルフィ」  しばし呆然としていた幼女は、そこでようやく我に返った。意を決したように、じっと帽子の少年の深い紅の目を見つめる。  ん? と帽子の少年が、満面の笑顔で幼女を見つめ返す。 「……こんにちは」  僅かに紅潮した頬で、表情は至って無機質のまま名乗る。 「ウツギ……ネコハです。ウツギルリとシグレの――妹、です」  はにかみながら何とか言い切る。抱き上げられたままで、それが幼女には精一杯だった。 「猫羽ちゃん⁉ ジパング名も持ってるんだぁ、可愛いー!」  きゃあーと叫ばんばかりに、更に強く抱き締めてくる。 「ラピちゃんと一緒で、ホントは人見知りの小動物な感じだ♪ 懐いてくれると嬉しいよね可愛いよね、何でもしたくなるよね!」  最早全く反応できない、一見は八歳程の幼女だった。  そうしてそのまま、幼女は少年に抱えられた状態で場所を移動することになった。 「…………」  ひし、と、帽子の少年の首にぬいぐるみごとしがみつく。  嬉しそうなその少年は、兄弟がいないらしい。それどころか血縁者がいない天蓋孤独なのだ。それをふと感じ取った。  それでも持てるこの温かみ。知らず、一筋の雫が静かに頬を伝っていった。
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