3人が本棚に入れています
本棚に追加
想定外の誘いを公家が続ける。
「棯殿は正直、いつ帰るとも知れぬ出立であると申されていた。竜牙殿もまだジパングには不慣れと聞く。この土地に慣れるか、家の者が帰られるまでは、ここにおられた方が安全じゃろう。その方が棯殿もユーオン殿も、安心されると思うがのう」
「それは……願っても無いお話ですけど……」
紅い少女がちらりと、幼女の方に目をやる。
思ってもみなかった公家からの提案に、人形の身としては判断に困るといった様子だ。
「……」
瑠璃色の髪の幼女はそこでおもむろに――静かに立ち上がった。
「……エルフィ?」
唐突ではあるが、迷いはなかった。
不思議そうに見る紅い少女の前、とことこと公家の元に近付き……。
「――お?」
すとん、と、ごく自然な動作で、楽しげに微笑む公家の膝を陣取った。それを許す隙だらけの公家の、直衣をひしっと掴む。
ひたすら目を丸くする紅い少女の前で、公家はよしよし、と頭を撫でてくれた。赤い髪の侍も朗らかに笑いかけた。
「ほら、嬢ちゃんもここがいいって言ってるぜ」
「…………」
紅い少女はしばらく、うーん、と両腕を組んで考え込んだ。
「それでは……もし良ければ、エルフィをこちらに、預かっていただいても良いでしょうか?」
そして出したらしい結論。公家と侍はおや、という顔付きで、紅い少女を見つめ直していた。
「それは構わぬが、竜牙殿はどうされるのじゃ?」
「それが……今、家にはもう一人の同居人がいるんです。体が弱いヒトなので、放っておくのも心配ですし」
淡々と言う紅い少女に、公家の膝の上で、幼女も特に異論はなかった。別にどちらでもいいと思っていた。
「エルフィが寂しがるといけないので、たまに顔を見に来ても良いでしょうか?」
「ああ、構わぬよ。竜牙殿も何か、困り事があれば、遠慮なく相談に来られると良い」
あくまで落ち着いた様子の紅い少女に、それ以上公家も侍も、無理に引き止める気はないようだった。
紅い少女は整った微笑みで、有難うございます、と礼を口にする。
「いいコにしてるのよ、エルフィ。わたしもなるべく、まめに会いに来るようにするわ」
「……」
こくりと頷くと、少し安堵したように笑っていた。一人その座敷を退出した少女を、黙って見送った幼女だった。
最初のコメントを投稿しよう!