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 想定外の誘いを公家が続ける。 「棯殿は正直、いつ帰るとも知れぬ出立であると申されていた。竜牙殿もまだジパングには不慣れと聞く。この土地に慣れるか、家の者が帰られるまでは、ここにおられた方が安全じゃろう。その方が棯殿もユーオン殿も、安心されると思うがのう」 「それは……願っても無いお話ですけど……」  紅い少女がちらりと、幼女の方に目をやる。  思ってもみなかった公家からの提案に、人形の身としては判断に困るといった様子だ。 「……」  瑠璃色の髪の幼女はそこでおもむろに――静かに立ち上がった。 「……エルフィ?」  唐突ではあるが、迷いはなかった。  不思議そうに見る紅い少女の前、とことこと公家の元に近付き……。 「――お?」  すとん、と、ごく自然な動作で、楽しげに微笑む公家の膝を陣取った。それを許す隙だらけの公家の、直衣をひしっと掴む。  ひたすら目を丸くする紅い少女の前で、公家はよしよし、と頭を撫でてくれた。赤い髪の侍も朗らかに笑いかけた。 「ほら、嬢ちゃんもここがいいって言ってるぜ」 「…………」  紅い少女はしばらく、うーん、と両腕を組んで考え込んだ。 「それでは……もし良ければ、エルフィをこちらに、預かっていただいても良いでしょうか?」  そして出したらしい結論。公家と侍はおや、という顔付きで、紅い少女を見つめ直していた。 「それは構わぬが、竜牙殿はどうされるのじゃ?」 「それが……今、家にはもう一人の同居人がいるんです。体が弱いヒトなので、放っておくのも心配ですし」  淡々と言う紅い少女に、公家の膝の上で、幼女も特に異論はなかった。別にどちらでもいいと思っていた。 「エルフィが寂しがるといけないので、たまに顔を見に来ても良いでしょうか?」 「ああ、構わぬよ。竜牙殿も何か、困り事があれば、遠慮なく相談に来られると良い」  あくまで落ち着いた様子の紅い少女に、それ以上公家も侍も、無理に引き止める気はないようだった。  紅い少女は整った微笑みで、有難うございます、と礼を口にする。 「いいコにしてるのよ、エルフィ。わたしもなるべく、まめに会いに来るようにするわ」 「……」  こくりと頷くと、少し安堵したように笑っていた。一人その座敷を退出した少女を、黙って見送った幼女だった。
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