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完全に行き当たりばったりで花の御所への居候を決めた、瑠璃色の髪の幼女だった。
「――え? エルフィより、猫羽ちゃんって呼ぶ方がいいの?」
「……」
ゆっくり頷く。今日から共に生活する部屋として、自身の寝所に幼女を連れて来た赤い髪の娘をじっと見つめる。
「その方が……ツグミ達と一緒みたいな気がする」
娘の着物の裾を掴みながら言う。無表情な幼女に、そう? と赤い髪の娘が、無防備に微笑んでいた。
「ラピは全然ジパング名は使ってなかったし、ユーオンなんて使いもしない名前、二つも登録されちゃってるのよ」
「二つ?」
不思議で首を傾げると、娘が楽しげに先を続ける。
「最初は身元不明だったから、ユーオンが御所を出る少し前、時雨雲英って登録したんだけど。ラピがユーオンを迎えに来た時に、棯紫雨って名前がもう登録されてるって、その時やっとわかったんだから」
「……でも、兄さんはどっちも、シグレなんだね」
「そうなの。凄い偶然だけど……まぁでも、確かにユーオン、雨が似合いそうな雰囲気だものね」
はい、と娘が、寝着となる小さな浴衣を差し出してきた。
「猫羽ちゃんも何となく、猫がよく似合いそうよね」
「……」
手早く幼女のそれまでの恰好――体術家向きの動きやすい服を脱がせると、子供用で可愛い白猫模様の入る薄赤い浴衣を、難なく着付けてくれた。
初めて着る浴衣。一しきり、嬉しい気持ちで眺める。
「初めは……ヤイバにしようって、水火が言ったけど」
「って――つまり、猫刃ちゃんってこと?」
「ネコのヤイバだと、牙とか爪とかいかにも貫く感じだから、やめようって……兄さんが言ったから」
「へぇ……ユーオンはもうそんなに、漢字も覚えてたのね」
常に片耳に翻訳機をつける少年。それでも元来の直観の効用か、言語の習得能力自体は高いようだった。
「私達とは多分、猫羽ちゃんは難なく話せるとは思うけど……御所の人はほとんど人間だから、ユーオンもそうだったけど、無理に話そうとしないでいいからね」
娘達のように、言語に依らない意思疎通能力は化け物の血故で、片方にそれがあれば話は通じるという。人間である瑠璃色の髪の幼女はともかく、金色の髪の少年が現代の化け物に普遍的なその力を持たないことを、娘は不思議がっていた。
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