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 思春期以降の年の者が寝付くには早い時間のため、しばらくしてから赤い髪の娘は寝床を離れた。  夜には再び共に眠ってくれた。赤い髪の娘を通し、幼女は戸惑う程に、温かな夢に連続して襲われていた。  中でも、瑠璃色の髪の娘が現れる夢で、一番近い記憶と思われたもの。京都の南、子供の自宅近くまで続くあの川辺の、昨夏頃の出来事だった。 ――……ええっ? 子供だけで花火するの?  術師の家に生まれ、天上の血をひく赤い髪の娘は、こんな程度の火。と、「力」で軽く火種を提供する。  そのすぐ後に、そう言えば――と、思い出したように瑠璃色の髪の友達を見つめた。 ――大丈夫? 確かラピ、火の気は苦手だったでしょ?  実父を炎の獣に殺された瑠璃色の髪の娘。それと覚えてはいなくても、火を見るのを昔から苦手としていた。 ――(くぬぎ)もたまに強引なんだから。無理に合わせることないのよ?  そうした相手の弱味を、術師の家の娘は無意識に感じ取ることが多かった。だからこれまで、あえて声をかけていなかった恒例の火の行事。  それに瑠璃色の髪の娘を誘ったのは、有無を言わせぬ笑顔で断りを封じた帽子の少年だった。  瑠璃色の髪の娘は、ううん、と嬉しそうに首を振った。 ――断ろーと思ったら伝話でもできたし。こーやって誘ってもらえることの方が嬉しいもん♪  内容は何であれ、彼らと共にいられる時間そのものを心から喜んでいる。その後に更に、気を使ってくれて有難う、と赤い髪の娘にまっすぐ笑いかけた。  瑠璃色の髪の娘は、基本的にはそうした直球な性質であり、 ――……ラピは本当、いつも笑って済ますんだから。  照れ隠しに不服気に返してしまう、赤い髪の娘とは対照的だ。だからこそ気の合う友達に観えた。 ――そうだよねー。ラピちゃんいつも、笑っててエライよね♪  アンタが言うか、と赤い髪の娘にツッコミを受ける帽子の少年。想像力が迸る場合を除き、常に明るい少年の笑顔を瑠璃色の髪の娘はまるで映すかのように、ずっと笑って見つめていた。  それでも彼らは、瑠璃色の髪の娘が微笑み続ける限り、立ち入れない領域があることも何処かで感じていた。  それも娘らしい姿なのだと……あえて踏み込まず、そのままの在り方を受け入れて共に在った。  それがどれだけ、己の闇を抑えて生きた娘の救いだったか――……泣き出しそうな温かさを、瑠璃色の髪の幼女は知る。 +++++
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