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赤い髪の娘の居室。最初に会った公家と侍の内、侍の家に世話になることになった瑠璃色の髪の幼女だったが。
「……何だ? またあの妹、鶫の部屋から消えたのか?」
「蒼は見てない? そっちで朝ご飯食べてるのかと思って」
朝が弱い幼女を娘は無理には起こさない。そのため摂り損ねてしまう朝餉を寝所まで運ぶたび、部屋に入ると幼女の姿が無い状況が繰り返されていた。
「今日は父上の膝にもいなかった。と言うより、父上が仕事で朝餉がご一緒できなかった」
そして何故か公家の一家の方で、公家が残しておいてくれた食事を僅かばかり膝の上でつまむのが、図太い居候な幼女の日常化していた。
もーっ、と心配そうに唸る赤い髪の娘に、従兄である剣士が納得したように無表情に頷く。
「さすがラピの妹だな。気が付けばいない所とかそっくりだ」
「ラピのは何て言うか放浪癖だけど、あのコは大体頼也さんを探してるんじゃない」
「……それ、そんなに違うものなのか?」
気ままに行動する点で変わらないように見えるらしい従兄に、全然違うわよ、と感性の強い娘が不服気に返す。
そんな遣り取りを感じ取っていながらも、今日も今日とて、気ままな幼女は公家の姿を探す。
赤い髪の娘と公家。夜は娘と一緒にいられるので、昼間は公家に甘えに行きたい。ひたすらただ、それだけだった。
「……今は、ダメみたい」
現状把握に優れる幼女には、穏やかで優しい公家が現在構ってくれやすい状況か、幼女がうろつく場所が客人でも立ち入って良い領域かなど、何となくわかる強味は大きい。
自由気ままに過ごしながらも、特に問題も起こしていない。早くも適応しつつある子供だった。
公家がそうして忙しそうな時は、赤い髪の娘に引っ付いているのだが、
「……あれ」
近くに無視できない気配が訪れていた。登っていた木からひょいと、着物にぬいぐるみを抱えた状態で、危なげなく御所の庭に降り立った。
とことこと、正門まで一人で出向く。
「おはよう、エルフィ。元気にしてた?」
慣れ親しんだ相手の来訪に、うん、と嬉しく微笑んだ。
「――猫羽ちゃん?」
その強い「魔」の気配を、隠そうともしていない紅い少女。
幼女がこの御所に来た日の、同伴者の気配を赤い髪の娘は覚えていた。それで娘も正門までやってくる。
「初めまして。竜牙水火と申します……山科鶫さん?」
少し前に一度出会ったはずの、不審な相手の虚ろな微笑み。赤い髪の娘が瞬時に警戒するのを幼女は感じ取っていた。
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