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「……猫羽ちゃん?」
「……」
術師の子供の厳しい視線は、少しだけ身を硬くした幼女を含めていた。
「悠夜達が言っているのは……猫羽ちゃんのこと?」
幼女をまっすぐ見つめ、赤い髪の娘が問う。
両手をそっと握り、怯えさせないように平静な表情を保ったままで、その先を凛と問いかけてきた。
「ユーオンがこの御所に、初めて来た時……蒼と悠夜を襲った、正体のよくわからない人形がいたの」
「…………」
「頼也さんは、人形の使い手はユーオンの知り合いで、だからユーオンが危ないと言われてたけど。それは――猫羽ちゃんのことだったの?」
幼女と寝食を共にして、まだ一週間に満たない状態。それでも幼女の類稀な勘の良さと、人間の幼子らしからぬ落ち着き。そして常に抱えるぬいぐるみの内に在る「力」の気配に、術師の一人である赤い髪の娘は気が付いていた。
公家とその子供達に正体が知られていることを、幼女は気が付いていた。
まだ知らされていない赤い髪の娘。その黒い目をまっすぐに見つめ返した。
「……うん。わたしは、兄さんに会いたくて……ずっと、悪魔の力を借りて……悪魔の使い方を、教えられていたよ」
瑠璃色の髪の娘の妹。そうであるはずの子供が、何故姉でなく兄を求め、そのような力を持ち、悪魔の元になどいたのか。
そもそも八年前に両親を失った瑠璃色の髪の娘に、小さな妹がいるという状況が本来有り得ない。そうした様々な、噛み合わせの妙な状況が入り乱れること。それを思い至れないようにされた者達がいる前で、幼女は己についてどう言えばいいのか不安だった。
「ユーオンに会いたくて……どうして蒼と悠夜を襲ったの?」
赤い髪の娘は、今も心配している金色の髪の少年と、同じ危うさを持つ幼女に真摯に問いかけてくる。
幼女はひとまず、尋ねられたことに誠実に答える。
「兄さんを探すことを手伝ってくれた悪魔が……悪魔の仲間を探すのを手伝ってほしいって、わたしに頼んだから」
「……」
いつかは話さなければいけないことだ。それでも、警戒されるのは辛くて、今までは何も言わずに甘えられる時間を噛みしめていた。
金色の髪の少年から、その敵は強い力を持った相手を求めていると、赤い髪の娘は注意するように促されていたらしい。ただ痛ましげな、青みがかった黒い目で幼女を見つめた。
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