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「悠夜は、許していないのではなくて、繊細な子なんじゃよ。身内の者をとても大切に思っておる分、外来の者には、それが安全と確信できるまでは中々心を許せないのじゃ」  そしてその身内に、身内以上に始終引っ付く図々しい新参者には、余計に中々打ち解けられない。息子の複雑な思いも察している公家は、遠慮なく甘える幼女の頭を笑ってくしゃりと撫でた。 「それに……お主達のように重い事情を背負った者には、傍にいると心が痛んで辛いのじゃろう」 「……?」 「なまじ賢い子である分、悠夜は自身の限界もよく知っておる。それでも本当は、助けたいと願ってしまう優しい子じゃからな」 「…………」  手を貸せる力の限界以上に、周囲の悲鳴が見えてしまう者。救われない人形達の使い手だった幼女も覚えのあることを公家は口にする。  それは辛い。それがわかっただけでも辛く、俯いてしまう。 「お主の関わった此度の事変には、わしも無関係ではなかった。もう少しユーオン殿の助けになりたかったが、ユーオン殿は一人で、消えない責苦を背負ってしまったようじゃ」  公家がこの御所に保護していた金色の髪の少年は、その事変で公家の旧い仲間と敵対した。それは幼女も知る相手で、少年の手で斬り捨てられている。その相手を害した少年が負い目を感じていると、公家は伝えられていた。 「竜牙殿のことも棯殿は心配されていてな。これまでの居場所を失った竜牙殿には現在、お主を守ることしか拠り所がないと――まだ、以前の自身を取り戻す程の強い自我が持てないでいると、棯殿は気付かれておったよ」  紅い少女は本来、ジパングの南に位置する島に住む、公家の旧い仲間の姪とも言える。しかし人造の人形であることをその事変で知ったため、帰る場所を見出せないでいる。  危うげで幸薄い者を間近で感じながら、結局は見守ることしかできないもどかしさは、公家達も同じであるようだった。 「……」  人形であることを楽しむ紅い少女は、人形にしかなれないと、自身を諦め切っている。  誰かの羽から得た知識と敏さで行動する以外は、大切な者の人形になることが喜びである「魔」。それでやっと、ヒトを思う外向きの心を何とか持てた空虚な生き物。知っていた幼女も何も言えなかった。
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