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「その養女殿が、何故魔界にいるという話になったか。悠夜には心当たりがあるのかのう?」 「……はい。けれどそれを……僕は兄様達に、何もお伝えすることができないんです」  日中に、紅い少女はこれ以上は事情を説明できないと口にした。しかし鋭過ぎる霊的な感覚を持つ術師の子供には、それと別の強い制約があることをふと感じ取る。 「神隠しと同位の霊障が、その方自身の願いで……兄様達からその方を消そうとしています」 「……?」 「その方に何かあったということや、今その方がどうしているか、そうした話が兄様達とできなくなりました。それは人の記憶を奪う神の力を流用する何かが、その方とその方の母上の霊の影響で、そう動いた結果だと思います」  既にそこまで、事の真相を掴んでいる鋭さ。術師の子供は俯いてしまう。 「それは……養女殿は何故、そのようなことを願ったのじゃ?」  そうした一部の意識を失うほどの霊障が、ここにいる子供達だけに起きている怪異。公家が厳しい顔で尋ねる。 「突然に死した者に、そこまで昏い願いを持つ余裕があるとは思えぬ。忘我の神通を持つという化生も、わざわざ動く道理はなかろう」 「……」  その言及が避けられないことも、術師の子供はわかっていた。 「その方は……猫羽さんと同じくらいの頃に、既に亡くなられていたんです」  そうして、兄の友人と初めて会った時から気付いていた秘密を、ようやく人に打ち明ける。 「それを、その方自身も含めて隠し通すために――僕も細部はわかりませんが、神や悪魔、様々な力が働いていたみたいでした」 「…………」  術師の子供がそうした真相に気付いていること自体は、幼女は最初から感じていた。だから話をしたかったのだ。  今は黙り込んだまま、公家とその子供の相談を見守る。 「僕はその方のことについて、兄様達とどう接していいかわからないんです」 「……ずっと一人で抱えておったのか、悠夜は」  公家一人しか、その養女が死んでいることを知らない。誰にも相談できずにいた我が子を思うように、公家は哀しげな目をした。 「気付けたのは悠夜だけとなると……鶫をも侵せる霊障であれば、相当強い力を持った化生の仕業じゃろうな」  それがどれだけ大きい事態か、公家は既に悟っている。 「悪魔も関わったことであれば、養女殿の魂が魔界に囚われた可能性も無くはなかろう」 「……はい」  友人の死を思い至れずとも、友人を心配する子供達の思いも妥当だった。真実を知る身として、どうしたものかと、悩ましげに親子が頭を垂れる。
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