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 そこで不意に―― 「でも……」  ずっと黙り、公家の傍らにいた幼女はようやく割り込めていた。 「でもユウヤは……ラピスを助けてくれたよね?」 「……――」  感じ取っていた大きな一つの救い。それを手伝ってくれたはずの術師の子供に、まっすぐ口にする。  それができるような霊感。そして真相を知るのは一人しかいなかった。 「ラピスは――ユウヤのおかげで、クウにお別れを言えてる」  たとえ瑠璃色の髪の娘が長く不在であっても、それを説明できる自然な理由を、娘は言い残したかったのだ。母親の元にいるから、と、無理に娘の存在を消さなくて良い別れ。 「ユウヤがラピスを、呼び戻してくれたんだよね……?」  一度だけ、秘密裏に娘の降霊をしたのは、術師の子供しか考えられない。  その助けに対して、最大の感謝を幼女はじっと伝える。 「……」  しかしその降霊と引き換えに――術師の子供は、娘とある約束を交わすことになった。 「本当のことは絶対に言わない……ユウヤは、ラピスからそうお願いされた?」 「…………」  類稀な強い力を持つ術師が、紅い少女や幼女と同様に、真相の片鱗を口にできないでいること。それは神隠しに影響された紅い少女達とは違う理由だと、直観の幼女は看破する。 「猫羽殿……猫羽殿には、姉君を消そうとしている者が誰か、心当たりはあるのかのう?」  金色の髪の少年と似た、鋭い現状把握能力を持つ幼女。少年の鋭さも知っていた公家が憂い気に尋ねる。 「あのヒトは……霊とかじゃなくて、ただの抜け殻だと思う」  少し前に直接対峙した相手のことを、幼女も憂鬱な思いで話す。 「ラピスの願いを叶える抜け殻……ラピスのお母さんの霊がずっと傍にいたから、霊みたいな抜け殻になってると思う」 「それなら、それはあくまで、養女殿の願いだと言うのか」 「うん……あのヒトはそれを叶えようとしてるだけ。ラピスは、自分のことを忘れてもらうか、消えたのを気付かれないことを願ってる」  いつか消えゆくことを無意識に知っていた死者。その昏い願い。  同じ年頃の子供を持つ公家は、ただ沈痛を浮かべる。 「ユーオン殿や棯殿は、それには気付かれておるのか?」 「……キラ兄さんは、多分わかってる。父さんは……ラピスを無理に呼び戻そうとしたら、本当に消えちゃうと思ってる」  本来、その養女を呼び戻すことは不可能ではなかった。こうして養女の体が修復された竜の眼の力なら、養女自身を目覚めさせることもできた。その養父の無念さを子供は知っていた。
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