3人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
そこで不意に――
「でも……」
ずっと黙り、公家の傍らにいた幼女はようやく割り込めていた。
「でもユウヤは……ラピスを助けてくれたよね?」
「……――」
感じ取っていた大きな一つの救い。それを手伝ってくれたはずの術師の子供に、まっすぐ口にする。
それができるような霊感。そして真相を知るのは一人しかいなかった。
「ラピスは――ユウヤのおかげで、クウにお別れを言えてる」
たとえ瑠璃色の髪の娘が長く不在であっても、それを説明できる自然な理由を、娘は言い残したかったのだ。母親の元にいるから、と、無理に娘の存在を消さなくて良い別れ。
「ユウヤがラピスを、呼び戻してくれたんだよね……?」
一度だけ、秘密裏に娘の降霊をしたのは、術師の子供しか考えられない。
その助けに対して、最大の感謝を幼女はじっと伝える。
「……」
しかしその降霊と引き換えに――術師の子供は、娘とある約束を交わすことになった。
「本当のことは絶対に言わない……ユウヤは、ラピスからそうお願いされた?」
「…………」
類稀な強い力を持つ術師が、紅い少女や幼女と同様に、真相の片鱗を口にできないでいること。それは神隠しに影響された紅い少女達とは違う理由だと、直観の幼女は看破する。
「猫羽殿……猫羽殿には、姉君を消そうとしている者が誰か、心当たりはあるのかのう?」
金色の髪の少年と似た、鋭い現状把握能力を持つ幼女。少年の鋭さも知っていた公家が憂い気に尋ねる。
「あのヒトは……霊とかじゃなくて、ただの抜け殻だと思う」
少し前に直接対峙した相手のことを、幼女も憂鬱な思いで話す。
「ラピスの願いを叶える抜け殻……ラピスのお母さんの霊がずっと傍にいたから、霊みたいな抜け殻になってると思う」
「それなら、それはあくまで、養女殿の願いだと言うのか」
「うん……あのヒトはそれを叶えようとしてるだけ。ラピスは、自分のことを忘れてもらうか、消えたのを気付かれないことを願ってる」
いつか消えゆくことを無意識に知っていた死者。その昏い願い。
同じ年頃の子供を持つ公家は、ただ沈痛を浮かべる。
「ユーオン殿や棯殿は、それには気付かれておるのか?」
「……キラ兄さんは、多分わかってる。父さんは……ラピスを無理に呼び戻そうとしたら、本当に消えちゃうと思ってる」
本来、その養女を呼び戻すことは不可能ではなかった。こうして養女の体が修復された竜の眼の力なら、養女自身を目覚めさせることもできた。その養父の無念さを子供は知っていた。
最初のコメントを投稿しよう!